第14話 童貞のススメ (04)

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 中学一年生のとき、学校で上級生に集団強姦された。ビデオを撮られて脅迫されて、繰り返し強姦された。映像がクラスの子たちに出回って、ネットにも上げられた。そのときの動画ファイルはあたしのパソコンの中に保存してある。

 生まれてきたこと自体が罪であるあたし。こんなあたしでも普通の女の子のようになれるかも。そんな愚かな希望を抱くたび、自分がどれほど醜く穢れた子なのかを思い知るためにこの動画を見返してきた。

 けれど、援助交際を繰り返すうちにあたしは変われた。強く生きられるようになった。もう普通の女の子には戻れないかもしれない。でも、あたしはあたしでいられる。あたしらしく生きられる。そう思ってた。もう過去を乗り越えたと思ってた。

 違ってた。

 あの三人組に強姦されたかった。めちゃくちゃにされて壊れるまで犯されたかった。あたしの心には強姦願望が深く刻み込まれている。どうにもできないんだ。こみ上げる衝動を止められないんだ。悲しくてたまらない。

 一晩泣き明かしたあと、日曜日は朝からエンジェルフォールに行った。誰かあたしのことをわかってくれる大人の男性に相談したかったんだ。でも、お店のドアは閉まっていて、蓮司さんもいないようだった。こんな時間じゃしかたがないけど。

 ほかに誰がいるだろう。ショウマは人の心がわからなさそうだから相手をしてくれないだろうし。藤堂先生なら相談に乗ってくれるだろうけど、あの人には家庭がある。家族を大切にして欲しいから休日にこちらから連絡を取るわけにはいかない。

 嫌だな。こんなふうにモヤモヤを抱えたまま落ち込んでたらロクなことにならない。

 というわけで――。

 気晴らしに童貞くんを逆ナンしにいくことにした。

 オジサマとの濃厚なセックスが好きなのだけど、最近は若い童貞くんの筆おろしも増えてきた。狙うのは清潔で素材も悪くないけど草食系で女性慣れしていないお金を持ってるお兄さん。こうゆう人はナンパをしてこないし、出会い系でも出会えない。なので、自分から声をかけに行く必要があるのだ。今は昔の援助交際黎明期には、おじさんが街で女子高生をナンパして値段交渉していたというし、女の子の方も大人の男に声をかけて買春を持ちかけていたと聞く。ネット全盛の現代こそアナログな出会いが貴重なのだ。

 三十分ほど電車に乗って、学生の多い街で降りた。先週、この街で大学生のお兄さんに声をかけて、二十万で最高の初体験をさせてあげた。すごく喜んでくれたし、あたしもうれしかった。自信を持たせてあげられたと思う。誰かの力になれるってステキ。セックスの道具にされるだけの売春婦じゃないもん。

 駅を出て百メートルの間に三回もナンパされてしまったけど、そうゆうのは無視だ。きょうはフリルのブラウスと水色ミニスカートに白のレースストッキング。ほんとは蓮司さんにアピールしたかった。学生の多い街ではちょっと痛いカンジに見えるのは自覚してる。すぐにヤれそうな子だと思われてるんだろうな。

 そんな感じで小一時間も街を行ったり来たりしていた。しかし、ナンパはされるものの逆ナンしたくなるようないいカンジのお兄さんはなかなか見つからなかった。がっかりということもない。若い男たちの性的な視線を浴びるのはスリリングで、いまはそれが心地いい。援交少女として元気が出る。

 お腹がすいたので、お昼にはすこし早いけど近くで見つけたベーカリーカフェに入った。通りに面した窓際のカウンター席で、街を行き交う人々をながめながらクロックマダムを食べているときだ。あたしの方をチラチラ見ながら小声で話している二人組の男性に気がついた。

 二十歳くらいかな。おどおどした表情だけど顔はそこそこ。それなりにファッションをがんばろうという意思が感じられるものの、流行遅れの服装で微妙にダサい。自分に自信を持てなくてモテないのに、自分ではそれを認めたくないタイプだ。あたしをナンパする勇気もないだろう。

 こんなに可愛い女の子を遠くから眺めてヒソヒソ話するだけの男なんて、あたしのターゲットにはならない。と思っていたのだけれど――。

 食べ終わってトレーを片付けようとしたとき、この二人組が近づいて声をかけてきた。

「あの……、ちょっといい?」

 無意識に口角をあげて上目遣いで営業スマイルをしてしまった。それで男はホッとしたような表情になった。背が高い痩せ型でカジュアルシューズに七分丈パンツ、長袖Tシャツに半袖ジャケット。こんな服装でも中身がある男が着れば案外決まるものだけどね。

 もう一人の男性は筋肉質で黒デニムに黒ポロシャツ、金のウォレットチェーンはワンポイントのつもりか。スラリとしてスタイルがよければあるいはカッコよく見えたかもしれない。こちらは陰気な表情で、出しゃばる友人をいさめようとしているようだ。

「なんですか?」

 無視しなかったのは、この人が精一杯の勇気を振り絞ってあたしに声をかけたんだと感じたからだ。断るのにも誠意を見せるべきだろう。ところが男は予想外のことを口にした。

「あ、べ、別にナンパとかじゃないんだ。その……、きみ、先週、坂下とデートしてたよね? あの……、もしかしてレンタル彼女、ってやつ……?」

 なんだと?!

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