第14話 童貞のススメ (01)

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 ふと、誰かに見られているような気がして、それとなく振り返った。

 誰もいない。

 土曜の朝の下町住宅街。通りには築四十年以上は経っているだろう小さな家々が立ち並ぶ。センターラインのない道路のあちこちに軽自動車や小型トラックが駐車していた。街は静まり返っている。このあたりは町工場も多いようだけれど、機械やモーターの音は聞こえてこなかった。

 あたしは背後に注意を向けたままふたたび歩き出した。『ピンとくる』感じは馬鹿にできない。危険ととなりあわせの環境に身を置いていれば誰でも第六感が発達してくる。朝の住宅街で変質者でもないだろうけど、たとえ巡回中の警官だったとしてもあたしにとっては忌むべき敵だ。

 きょうは白のミニスカセーラーに紺ハイソ。部活練習のために学校に向かう女子高生に見えるかな。これから会うのは川口さんという人。先日マッチングアプリで知り合った。二十代前半のイケメン男性。水曜日に顔合わせを済ませて、本日お買い上げいただくことになったのだ。川口さんはいかにもモテそうな感じで、がっついたところもなかった。あたしは「エッチに興味あるけど経験はまだない」と思わせてある。セーラー服で一日デートして三十万という約束だ。こんな機会を痴漢や補導員なんかに邪魔されたくない。

 十メートルほど歩いたところで、前方に中年男性がひとり現れた。あたしは全身に緊張が走るのを感じた。派手な柄のシャツに口ひげ。ラフな服装で休日の散歩のつもりだろうけど、清楚な美少女JKがいるのにこちらをちらりとも見ようとしない。

 この男は怪しい!

 あと十歩も歩けばすれ違う、そう思ってバッグの中の痴漢撃退スプレーに手を伸ばしたとき――。

 すぐ背後で車のスライドドアが開く音がした。

 ハッとした瞬間、うしろから伸びた大きな手があたしの口をふさいだ。

 同時に前から口ひげの男が走り寄ってきて、あたしの両足につかみかかった。

 スキンヘッドの三人目の男が現れてあたしの腰を両手でかかえる。抵抗する間もなく、あたしは体を持ち上げられ、ワンボックスカーの中に連れ込まれてしまった。

 一瞬のことで、何が起きたのかすぐにはわからなかった。

 座席を倒してフラットになった後部座席の上で、あたしは三人の男に押さえ込まれた。

 スライドドアが閉まる。入水自殺の亡者たちに水の中に引きずり込まれたように、あたしは外の世界から切り離された。

 拉致された!

 前にいた男に気を取られていて、後ろからEVモードで音もなく近づいてくる車に気づかなかった。

 心臓が激しく打ち、全身の血が沸騰しはじめたように思えた。目の焦点がうまく合わない。脚がガクガクと震えた。涙で視界がぼやける。

「おいおい、今度のJK、めちゃくちゃ上玉じゃねーか。おい、でかしたぞ」

 と、スキンヘッドの男が運転席にいた男に声をかけた。

 そのとき初めてハンドルを握っている若い男の顔を見た。

 川口さんだった。

 川口さんはあたしの方を振り向いて、馬鹿にするように鼻を鳴らした。

「悪かったな、沙希ちゃん。きょうはこの人たちに可愛がってもらうんだ。知らない男にホイホイついてきちゃうようなきみにも落ち度があるんだよ。あいにくオレはガキには興味ないんでね。まあ、こうなったら仕方ないよ。あきらめて、せいぜい楽しむことだ」

「そういうことだ。言う通りにしてりゃ、気持ちよくしてやるからよ」

 そう言って口ひげの男があたしの肩を抱き寄せて首筋に舌を這わせた。逃れようともがくあたしを男たちが嘲笑った。

「ヤリ部屋に着くまでおとなしくしてろよ」

 スキンヘッドの男がガムテープを手に言った。

 背後の男が手を離す。思わず悲鳴をあげた。何か考えがあってのことじゃない。ただ怖くて怖くて叫んでしまったのだ。その瞬間、男に思いっ切りひっぱたかれた。痛みで、というより、びっくりして呆然となり、悲鳴も途中で消えた。

 あたしはガムテープで声を封じられ、手首を結束バンドで固定された。

「ヒッヒッヒッ、ぴちぴちJK一名様、地獄へご案内」

 その言葉と同時に黒い布袋を頭にすっぽりとかぶせられた。

 息が苦しい。怖くてたまらない。体の震えが止まらない。

 パニックを起こしかけてる。そのこと自体がショックを倍増させた。あたしは援助交際をやってるビッチだ。レイプされたことだって二回や三回じゃない。子供の頃のレイプトラウマだってもう克服できたはず。援交でレイププレイだって楽しめてるくらいだ。なのになんでこんなに恐怖と絶望に押しつぶされそうなんだ?

 背後の男があたしに抱きついてセーラー服の上から乳房を揉みしだく。二人の男が脚を押さえつけて撫でまわす。男たちは口々に卑猥なセリフを吐いてくる。気持ち悪くてたまらない。もぞもぞと抵抗するあたしを嘲笑う声。

 その笑い声を乗せて、車は動き出した。

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