わたしの前までベッドを押してくると、栄寿さんはすこし息を切らせて、
「こんなことをしていいわけがない。ぼくは莉子ちゃんを傷つけてしまう。血縁だから結婚という形で責任をとることもできない。いまの莉子ちゃんは怖いものなんてないと思ってるかもしれないけど、でも、いつかきっと後悔するだろう。それがわかってるのに……。ぼくは、なんて弱い人間なんだ」
と、苦しそうに言った。
だけど、わたしは栄寿さんが戻ってきたことに安心した。その気になってくれたんだ。なんだかおかしくて、笑い出したい気分だった。
確かに『ここでセックスしたい』って言ったけれど。それはこの別荘でってことで、このバルコニーでセックスしたいっていう意味じゃなかったんだけどな。
涙に濡れた顔を上に向けた。
穏やかに晴れた空に白い雲がただよっている。やわらかい午後の光の中、かすかな波の音だけが聞こえた。
「後悔……するかもしれません。先のことなんてわからないもの。でも、いまは栄寿さんに恋をしてる。栄寿さんのことが好き。わたしのぜんぶを栄寿さんにあげたい。この気持ちは本物だわ。だから……、受け止めてください」
そう言って、笑顔で涙をぬぐった。
栄寿さんはわたしの髪をなでて、弱々しく微笑んだ。それからわたしのほっぺたの涙を指先で拭いてくれた。
ギュッとされて、チュッとされた。
「好きだ、莉子ちゃん」
すごくうれしかった。わたしも何か言おうとしたけど、言葉が出てこなかった。
栄寿さんと一緒にベッドに腰を降ろした。きちんとベッドメイクされていて、メイドさんたちの仕事ぶりがうかがえた。
変な気分だ。屋外なのにベッドの上なんて。海辺だからまわりは開けていて、頭上にはビルも電線もない。
自然の中で、そよ風に抱かれて、とっても開放的。わくわくする。
けれど、いざベッドに座ると、恥ずかしくて気持ちが萎縮してしまう。もじもじするばかりで栄寿さんのほうを見れない。
二回目のセックス……。
はじめてのセックスはよくわからないうちに通りすぎてしまった。痛かったけど、すこしだけ気持ちよさも感じた。あの感じをもっと知りたい。
わたしから栄寿さんをリードしたほうがいいのかな。
いや、違う。ここから先は栄寿さんにぜんぶまかせるんだ。栄寿さんに教えてもらうのだもの。きのうと同じように信じて身を委ねればいいんだ。
栄寿さんの腕がわたしの肩に触れた。それだけで緊張する。これから何をされるかわかっているせいだ。初体験のときよりもドキドキしてる。口の中がカラカラだ。
しばらくしても栄寿さんが何もしないので、おそるおそる栄寿さんの顔を見上げた。こわばった表情で見つめ返された。
ああ。栄寿さんも緊張してるんだ。
「えへへ」
緊張をほぐすために笑ってみたけど、ほっぺたが引きつってうまく笑えない。
栄寿さんも笑みを浮かべた。
きのうはわたしに誘惑されてオオカミさんになっちゃったから、その勢いで突っ走ってくれたけど、やっぱり怖いんだろう。
栄寿さんの肩に頭をくっつけた。
「焦ることないです。時間はいっぱいあるんだから」
栄寿さんはわたしの肩を抱いて、
「ゴメン、もう迷わない。うれしいよ、莉子ちゃんの気持ち。ぼくのすべてで応えたい。そのためには悪い男にだってなるよ」
そのセリフがおかしくて、わたしはくすくす笑った。栄寿さんが悪い男だなんて似合わないよ。
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