いけない進路相談 (04)

ところが、図書室に入ってきた女生徒は、廊下にいる別の女生徒に呼び止められた。そのまま何か話していたが、やがて、ぶつぶつ言いながら図書室を出て行った。書架の奥に隠れていた操と矢萩には気づかなかったようだ。

戸が閉められ、女生徒の気配が去っていくまで、操のオルガスムスは続いた。

ようやく矢萩が操を放した。操は床に崩れ落ちた。

激しい快感と、恐怖のあとの安堵感で感情が昂ってしまい、操は涙が溢れてくるのを抑えられなかった。

しばらく息を整えて、よだれを拭くと、操は上半身を起こした。すでに矢萩は使用済みのコンドームをかたづけて、乱れた髪を直し終わっていた。男の人は終わったあと、すぐに正気に戻ってしまうものだ。

矢萩はしゃがんで操の髪を撫でると言った。

「俺は職員会議があるからもう行かなきゃ。ホームルームには遅れるなよ」

「うん」

どのみち図書室を出るときは、誰かに見られてもいいように、二人別々にするつもりだった。矢萩が出て行ったあと、操は床に座ったまま余韻に浸っていた。ぼーっとした頭で、さっきの快感を反芻してみる。

(すごかったな。あんなの初めてだ。イクっていうのにも、まだまだあたしの知らない奥深さがあるんだね。もっともっと気持ちよくなれるかな。もっといっぱいしたら、もっと何倍も気持ちよくなれるかな。そんな高いところまで、行ってみたいな)

涙を拭きながら、にやけた顔でそんなことを思っていると、不意に人の気配を感じた。操が顔をあげると、目の前に一人の女生徒が立っていた。親友の大友真琴だ。目が合うと、真琴は心配そうに操に駆け寄って身をかがめた。

「どうしたの、操? 何かあったの?」

どうやら操が床にへたり込んでいるのを見て、何事かと思ったらしい。操は真琴の差し伸べた手を取って、立ち上がりながら、

「大丈夫、ちょっと貧血みたい。たいしたことないから。微分幾何学の教科書を探しにきたんだけど、やっぱり朝ごはん食べないとダメね」

スカートの埃を払いながら、操は笑顔を作った。すらすら口からでまかせが出る自分に感心する。矢萩との仲を秘密にするために身についたわざだ。

「真琴こそ、朝っぱらから図書室なんてどうしたのよ」

「生徒会の仕事で調べもの。文化祭の準備でね。過去の学校行事の記録を探しにきたのよ。ほんとに大丈夫? だいたい微分幾何学の教科書なんて、高校の図書室に置いてあるわけないでしょ」

「言われてみればそうだよね」

操は苦笑した。わざと難しい単語で煙に巻くつもりだったのだが、生徒会副会長で、数学以外の科目では操より成績のいい真琴には通じなかったようだ。

さっきセックスの最中に図書室に入ってきた女生徒は、おそらく真琴だったのだろう。たぶん生徒会の誰かに呼び止められ、図書室から出て行ってくれたおかげで、決定的な場面を目撃されずにすんだ。その幸運に、操は胸をなでおろした。

「資料探し、手伝うわよ、真琴」

真琴とは二年生になってから親しくなった。実力テストの結果が貼り出されたとき、ともに学年の上位に入っていたことがきっかけだった。

かっこいい人、というのが第一印象だった。真琴は、背中まで伸びたストレートの黒髪が似合うスレンダーな美少女で、恋多き女としても知られていた。一年生のときだけでもけっこうな人数の男子と交際した経験があるらしく、しかもたいていは男のほうがふられて終わるらしい。それなのに高潔な人格者として、むしろ清楚なイメージで受け取られているのは、快活で裏表のないさっぱりした性格のおかげだろう。

幼い顔立ちながら、グラマラスでどちらかというとぽっちゃり系の操は、二年生の美少女ツートップとして、男子の人気を真琴と二分していた。しかし、真琴は女子のあいだでも人気があった。恋愛に疎いふりをしているせいで、男に媚びていると陰口をたたかれることも多い操とは対照的だ。

操は真琴の知的で大人びた雰囲気が好きだった。真琴のことを尊敬していたし、真琴のようになりたいと思っていた。操は真琴と親友でいられることを誇らしく思っていた。

それでも矢萩との関係は真琴にも秘密だ。親友だからといって話せないこともある。

目的の資料を集めて生徒会室まで運ぶと、操と真琴は教室に向かい、なんとかホームルーム開始に間に合った。

おかげで操は下着をつける時間がなかった。

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