人妻セーラー服(04)

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 おいおいマジかよ、ではない。もうじき三十歳になるというのにJKコスプレを楽しんでいる女性だっているんだよ。みんなもやってみたらいい。

 スクールバッグは卒業時に処分してしまったけれど、下校中の女子高生がトートバッグじゃおかしい。くるみはクローゼットから小型のボストンバッグを引っ張り出した。色は赤で、無地でシンプルなデザイン。通学用に使っているとしても通るだろう。

 靴は普段使いのローファーで十分だ。

 エレベーターで一階に降り、エントランスロビーを抜けようとしたとき、コンシェルジュの女性がいるのに気づいた。毎日挨拶をしているからすぐバレるだろうし、変な人だと思われかねない。くるみは駐輪場のある裏口から外に出た。まあ、防犯カメラには写っちゃってる。偶然何かの事件が起きたりしたら、警察に追求されるかもしれない。「奥さん、セーラー服なんか着て何をしていたんですか」なんてね。くるみは取り調べを受ける自分を想像してひとりでウケた。

 マンションの裏は一方通行の路地になっていて、人通りはすくない。

 とはいえ、これはかなりのドキドキものだ。

 ミニスカートが急に心もとなく思えてきた。まるで下半身には何も身に着けていないかのようだ。

 前から作業着姿の中年男性が歩いてくるのに気づいた。このままだと狭い歩道の上ですれ違う。くるみは平静を装って、うつむき加減でそのまま歩いた。コスプレがバレるのではないかと内心びくびくしているその様子は、傍目には襲われるのではないかと不安でたまらない少女に見えた。男性にとってそうした態度は「誰かに襲われたい」というシグナルになってしまうことがある。

 あと二メートルというところで、中年男性が歩調を緩めた。くるみはビクッとして立ち止まってしまった。恐怖でいっぱいになり、バッグの持ち手を握りしめた。すぐに、このまま棒立ちになっているのはよくない、と思い直し、震える足で歩きだした。

 いよいよすれ違うという瞬間、今度は中年男性が立ち止まった。うつむいているくるみには男性の足しか見えなかったけど、男性は歩道のやや車道側に寄って、くるみの方に体を向けるように斜めに立っていた。車道と反対側は建物になっていて、くるみは建物と男性の間の狭い隙間を通らなければならない。

 くるみは口の中がカラカラになっているのを感じながら、太ももをガードするようにバッグを持って、なるべく男性から距離を取って通り抜けた。すれ違ったあとは、片手でスカートのお尻を押さえ、早足になった。一刻も早くその場から逃げたい気持ちだった。

 恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。

 三十メートルほど歩いたところで大通りに出た。振り返ってみると、中年男性の姿は消えていた。くるみは大きく息を吐き出した。解放感と安堵で、全身の筋肉が緩むのが感じられた。次に高揚感が湧き上がってきた。

(バレなかった……。よかった。てゆうか、やるじゃん、くるみちゃん)

 くるみは顔をほころばせた。

 さっき男性が立ち止まったときには、くるみは内心もうダメだと思ったのだった。けれど、実は男性の方は、単に狭い歩道上ですれ違えるよう道を譲っただけだったんだよね。男がみんな女子高生を性的な目で見るわけじゃない。中年の人からしたら、しょせんただの子供だと思うのが普通だ。それなのに「あ、この子、俺を変態の性犯罪者だと思っているな」と思わせて、けっこう傷つけてしまった罪深いくるみである。

 さて、大通りに出たくるみ。

 どこへ行こうかすこし迷ったけど、高校時代によく遊んだ街に行ってみようと決めた。電車で三十分ほどだ。くるみの実家はその街のとなりの駅にあり、母校の高校は反対側に四駅ほど行ったところにある。

 大通りの幅広い歩道には多くの人が行き交っていた。くるみは顔を上げて、駅の方へと歩きだした。

 セーラー服を着ている変な大人だと気づかれるかもという不安はあった。でも、ワクワクドキドキの興奮の方が勝っていた。

 くるみはまだビクビクしていたけど、実際のところ、大人の女性がJKコスで街を歩いていても、まずバレない。もちろん間近に寄ってマジマジ観察すれば違和感があるだろう。肌が違うからホテルに行けばバレることも多い。でも、すれ違った程度なら大丈夫。そういうことをしている成人女性は意外といる。むしろ大人ゆえの妙な色っぽさが出て、本物の女子高生とは別の魅力にメロメロになってしまう男性もいるのだ。バレないようにとメイクに気合入れすぎちゃう人はかえってバレやすいけどね。

 駅に着く頃には、そう簡単にはバレないし、そこまで他人に注目している人もいないのだ、ということが、くるみにも分かってきた。正直、拍子抜けと言ってもいいくらいだ。くるみは気が大きくなってきて、同時にいたずらっぽさが首をもたげてきた。

 改札を抜けて、ホームへと上がるエスカレーターを見上げた。平日の昼間だけどビジネスマンは多い。くるみは、エスカレーターに乗ろうとしていた二十代後半だろうスーツ姿の男性のすぐ前に、それとなく割り込んだ。バッグは両手で体の前に持った。高校生のときはエスカレーターではスカートを押さえていたものだけど――。

「ふふふ、パンツを見てもいいのよ?」

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