ありがとね (01)

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女子高時代からの親友の美紗子(みさこ)が、昼メシをおごるという。ふたりでファミレスに入ったのは、そろそろランチタイムで混み始めてくるかなという頃だった。

席に着くなり、美紗子はスマートフォンを取り出して、水戸黄門の印籠のようにかかげた。

「雛子(ひなこ)、これってどういうことだよッ」

画面に表示されているのは、わたしが運営しているネット小説サイトだった。半年前にアップした小説のページだ。

「どうって、なにが?」

「この小説に出てくる腹黒女って、わたしをモデルにしてるだろ!」

美紗子が口を尖らせて文句を言うので、思わず吹き出しそうになった。美紗子が言っているキャラクターは、男を寝取るためにヒロインを陥れようとするのだが、もちろん美紗子をモデルになんてしていない。

「言いがかりだよ。美紗子の知り合いが読んでも、そのキャラから美紗子を連想したりしないだろ。類似点なんてないし」

「名前が一字違いだ。このキャラが主人公に言ったセリフは、わたしがあんたに言ったのと同じだし。おまけにBカップって設定まで同じじゃんか」

「あのな、身近に小説書いてる人がいると、自分のことを書かれるんじゃないかって思っちゃう人もいるらしいけど、そりゃ自意識過剰ってもんだ。あんたをモデルになんてしてないよ。冬コミの原稿の追い込みと就活とで疲れてんじゃないの?」

美紗子は自分が変なことを言っているのは認めた様子だが、口をへの字にしたままだ。

「美紗子のほうこそさ、夏に出した本の女体化キャラは、文字どおり、わたしをデッサンモデルにしてるでしょ。3Pのシーンがぜんぶわたしのビデオのトレパクだったぞ」

痛いところを突かれたという表情をして、美紗子はいままで乗り出していた身を引いた。

「トレパクじゃねえよ。参考にしただけで、ちゃんと描いてるよ。まあ、モデルにしたと言えば確かにそうだが」

「言ってくれたら、ナマでポーズモデルしてあげたのに」

わたしがAVに出ているのを知っているのは美紗子だけだ。パブNGなのに、美紗子にはバレてしまった。エロ同人誌の資料としてアダルトビデオを見まくっていて見つけたのだという。

ウェイトレスさんが来たので、わたしたちはそれぞれにオーダーした。美紗子のおごりだからと、ちょっと高いメニューを選んだ。

「誰がおごると言った? わたしは『昼メシおごれよ』と言ったんだ」

「言いがかりつけてランチをおごらせようなんて、いつからそんな悪どい女になったんだ、お前は」

「AV女優だろ、ケチケチすんな」

「世間が思ってるほどAV女優は儲からねーんだよ! 一応わたしは企画単体だから、それなりのギャラはもらってるけどさ」

「わかったよ、じゃあ、割り勘でいいや」

おい、あんたのおごりじゃないのかよ、と思ったが口には出さないでおいた。

美紗子はため息をつきながら、スマートフォンの画面をいじっている。きっちりメイクで隠しているが、ずいぶん疲れている様子だ。

「ロクに寝てないって感じじゃん」

「就活がけっこうキビシクてさ、四年生になったらあまり時間も取れないだろうから、今度の本は気合入れてんのよ。なのに絵も話も詰まっちゃってね」

「気合入れすぎて空回りしてんじゃないの?」

「まあ、そんなわけで気分転換しようと思って、普段はスルーする一次の小説でも読んでみようかと検索サイトから飛んでみたら、見覚えのあるホムペじゃん。雛子のヤツ、ずいぶん書き溜めてんなー、と思ったら、どう見てもわたしにしか見えないキャラが出てた、ってわけでいまに至るのだ」

わたしのサイトは一年前に美紗子に作ってもらった。パソコンはかなり使えるのだが、HTMLとかよく知らなかったので、高校の頃からサイトを作っている美紗子に相談したのだ。

そのときペンネームがAVっぽいとからかわれた。まあ、ビデオ用に考えた名前だったからね。その後、わたしが本当にAVに出ているのを知って、美紗子はずいぶん怒ってやめさせようとした。結局は認めてくれたけれど、いまでも友だちでいてくれることに、本当に感謝している。

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