夏をわたる風 (02)

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初めきょとんとしていたさやかは、やがてうんざりしたようにため息をついた。

「十五歳で結婚考えるのは早すぎるだろ。あんた、結婚する相手としかセックスしないってタイプだっけ?」

「割とそうだが」

「そりゃまあ、セックスについての考え方は人それぞれだけどォ。もったいないな。留美は男子にモテるのに。例えば、さっきからあたしたちの会話に必死で聞き耳を立てている山形くんとか」

そう言って、さやかが隣の席でマンガ雑誌を読んでいた男子生徒のほうを見た。山形慎二(やまがた・しんじ)は突然自分のほうに注意が向けられてどぎまぎした様子を見せたが、気づかないフリをしているようで、マンガ雑誌に視線を落としたままだ。

さやかが留美に顔を近づけると、小声で、

(あいつ、留美に気があると思うけどな。どう?)

(な、なに言ってんだ!?)

留美もささやき声で返した。

柔道部にしては小柄な山形は、ルックスも成績も人気も平均点だった。留美にとっては、さして親しくもなく、悪いヤツではなさそうだが、いつも仲間内でバカ話をしている普通の男子という印象しかなかった。

さやかと留美が山形のほうを見つめていると、視線に耐えられなくなったのか、

「な、なんだよ。俺は別にお前らの話を盗み聞きなんてしてないぞ」

「やっぱり聞こえてたんじゃーん」

さやかが意地悪く言うと、山形は二の句が継げないのか、マンガ雑誌を閉じてぷいっとむこうを向いてしまった。女子と話すことには慣れていない様子だ。この人はまだ童貞なんだろうな、と留美は思った。

山形がふたりと反対側に顔をそらしてしまったので、なんとなくつられて山形の見ているほうへ視線をやった。それで、教室の入り口のところに、もうひとりの親友である秋田優奈(あきた・ゆうな)を見つけた。

優奈は別のクラスの男子生徒と話し込んでいた。優奈が教室の入り口を入ったところに立ち、相手は廊下に立っている。背の高いほっそりした少年で、ハンサムだけれどまだあどけなさの残る顔立ちをしていた。佐賀圭一(さが・けいいち)だ。

留美はさやかに、

「優奈は佐賀の告白を断った、んだよな……?」

「優奈はそう言ってたな。しかし、あの様子だと、話はまだ終わってないって感じだな」

さやかも優奈のほうを見て言った。

優奈は笑顔を浮かべているものの迷惑そうに見えた。早く席につきたいのに佐賀に引き止められているようだ。

「優奈は図書委員会で佐賀と知り合ったんだっけか。優しくてカッコいい人だ、って言ってたし、優奈も佐賀のことを憎からず思ってる様子だったけどな。けっこうよさそうなヤツなのに、なんでフッたんだ?」

と留美は思い出しながら訊いた。

「知らん。坊やだからじゃね?」

大学生の恋人がいるというさやかからすると、女子の人気ナンバーワンのイケメン少年もただの坊や扱いか、と留美は苦笑した。

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