快感ストーム(02)

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「スポーツセックスがオリンピック種目になるのは今回の大会が初めてなのですけれども、通常の国際大会とは一部ルールが変更されているそうですね?」

 と、小林アナが話題を変えた。レセプターレゾナンスを使ったセックス体験の愛好者は多いが、スポーツセックスの競技人口はまだすくない。公式大会のルールとなるとよく知らない視聴者がほとんどだろうという意図の質問だ。競技の発展のためにセックスプレイヤーの裾野を広げることもトップアーティストの重要な役割だと統和は承知していた。こうしたインタビューに応じるのもそうした活動の一環だった。

「はい。ほかの国際大会での競技時間はショートプログラムの一番短い種目でも30分なのですが、今大会では20分に短縮されています」

「すると、各国チームとも作戦の立て方が変わってきますね」

「ええ、純粋にアートとしてのセックスではプレイが数時間に及ぶこともありますし、プレイヤーの多くは20分という制限には慣れていません。そのため、前戯の長さ、体位を変更するタイミング、射精の回数など、体験の組み立て方が普段と違ってきます」

 時間が短縮されたのはテレビ中継の都合であり、大手のメディアネットワークの要請による。これを苦々しく思っていないプレイヤーはいない。

「三上選手としてはどのような作戦を考えていらっしゃいますか?」

 台本どおりの質問だが統和は思わず素で苦笑した。

「それは言えませんよ。ただ、めくるめくセックス体験をお届けできるよう全力を尽くすとだけ言っておきます」

 そう答えながら統和は亜里沙のことを思った。亜里沙も競技にかける思いは同じはずなのだが……。

「では、最後に三上選手、日本のファンの方たちにひとことお願いします」

「はい。今回スポーツセックスが初めてオリンピック種目となりました。セックスをすることで人と人とが心も体も一つになってわかりあえる。そんな素晴らしさをぜひ知っていただけたらと思います。頑張ります!」

「ありがとうございました。三上選手と久野選手でした」

 報道スタジオを出た統和はメイと連れ立ってベルサイユ宮殿へと向かった。途中ですれ違う各国のチーム関係者が統和を見て激励の言葉を投げてくる。みんな初のオリンピックに期待している。成功させたいという気持ちは統和も同じだが、それ以上に亜里沙とのセックスを最高のものにしたいと思っていた。そのためには彼女の快感を徹底的に引き出す必要がある。

「三上さんってすごいですよね。決勝まで一時間もないのに余裕があって。メイも三上さんみたいな鉄のメンタルが欲しいですぅ」

「ぼくらのペアは予選二位だから、出番が来るのは明け方近くさ。まだ半日ある。メイちゃんとウォーミングアップする時間だってあるよ」

「えー? 本番まで精子は温存しとかなくちゃですよ。メイと浮気なんて、須崎先輩に言いつけちゃいますよ?」

 おどけて言いながら体をくっつけてくるメイを、統和は抱き寄せてキスをした。

「亜里沙にはナイショだ」

 恥ずかしそうに微笑んだメイはすぐに真顔になった。

「三上さんは堂本さんの話、どう思いますか? メイが須崎先輩の代わりに三上さんとペアを組むべきだってゆう提案の件。メイはうれしいですけど、三上さんの須崎先輩への気持ちも知ってるので……」

「競技とプライベートは別だよ。亜里沙だってアスリートとしてそこはわかっている」

 そう言ったものの統和はどうしたいのか自分でもわからなかった。亜里沙が統和をどう思っているのかもわからない。ただ、一流のセックスプレイヤーとして、最高の結果を出せる女性とペアを組みたい。すくなくともこれまでは亜里沙がその女だった。

 メイとどこかの仮設テントに入って体をほぐそうかと思っていると、チームオーナーの堂本氏が現れて統和に声をかけてきた。雰囲気を察したメイがその場を離れると、堂本氏が統和をにらみつけた。

「久野メイと組むように言ったのはわたしだが、本戦開始直前だぞ。いまのパートナーの様子を気にしてやったらどうだ? こんなことで金メダルを取れるのかね?」

 まわりの人に聞かれないよう声を落としているが威圧的な態度だ。堂本氏は大柄で、五十代にしては引き締まった体をしていた。夏なのにスーツにネクタイを締めている。公式ユニフォームを着た二十七歳の統和と並ぶと、まるで大学生の息子を叱る頑固な父親のように見えた。

 実業家の堂本氏はレセプターレゾナンスをアダルトビジネスに持ち込んだ先駆者で、それによって会社の規模を大きくしてきた。スポーツセックスの振興に熱心なのもセックス体験の販売事業をさらに拡大したいからだと統和も承知していた。動機は不純でもスポーツセックスにかける情熱では統和と並ぶ。そこは認めているのだが。

「亜里沙の調子は最高ですよ」

「プレイヤー控え室にいる須崎くんの様子からはとても最高のコンディションには見えなかったがね。いいか三上、このオリンピックでは必ず金メダルを取るのだ。これは至上命令だぞ。できなかったら、お前と須崎くんのペアは解消、久野メイとのペアに変える」

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