第14話 童貞のススメ (11)

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 まずは水曜日。中間テストの一日目が終わったあと、クローゼット代わりに使ってるトランクルームに寄って着替えた。ベージュの制服風セットアップに白ニーハイ。かなりカワイイ。駅で待っていた朝岡さんも、駆け寄るあたしを見て顔を赤くした。

「貴志くん! また会えてうれしい!」

 そう言って胸に飛び込んだ。

 朝岡さんは前回と同じ黒のジーンズに金のウォレットチェーン。上はネイビーのポロシャツで、さすがにまったく同じ服装というわけじゃないけど、たぶんほかの人が見ても気づかないだろう。

 何か言いたげな表情で見つめる朝岡さん。ヤりたいと言ってくれれば金額交渉に入れるんだけど……。

「きょ、きょうは何時までいられるんだ? あんたは高校生だし、あしたも学校があるんだろ?」

「このあとは何も予定は入ってないよ。貴志くんが誘ってくれたんだもん。終電までいっしょにいたいな」

 それだと十五万か。坂下さんは二十万だったからそれ以下にはしたくない。友達同士で差をつけちゃマズイよね。回数を減らせばOKかな。

「じゃあさ、とりあえず、きょうは俺の部屋に来ない?」

 普通の男女ならこれはNGパターン。レンタル彼女でも禁止事項だろう。あたしはちょっと不安そうな表情を作ってから、ちいさく「うん」と答えた。レンタル彼女のお仕事ですということを示すために三万円を受け取り、スマホのタイマーをセットする。童貞の人は女の子が何を考えてるのかについていろいろと妄想を膨らませるものだと思う。朝岡さんはあたしが自分に気があると思ってるはずだし、これはお仕事だと自分に言い聞かせて部屋についてくるように見えてるだろう。お膳立ては整えてあげる。だから、がんばってあたしをモノにしてよね。

 朝岡さんの部屋に向かうあいだ、あたしたちはほとんど言葉をかわさなかった。手をつなごうよ、と言うと、朝岡さんは「ああ」とだけ答えて、今回は手をつないでくれた。

 連れて行かれたのは賃貸の低層マンションだった。2LDKで、大学生が一人で住むにはちょっと広い。もしかして実家が裕福なんだろうか。

 六帖ほどの広さの洋室に案内された。ベッドが一つ、ちいさなチェスト、それにテレビがある。

 いきなり寝室じゃん! あたし、まだヤらせるって言ってないんだけど?

「延長分もまとめて渡しておくよ。これで足りるかな」

 朝岡さんが銀行の名前が書かれた封筒を差し出した。十七万円入っていた。さっきもらった三万と合わせて坂下さんと同じ金額。つまり……。

「あの……、貴志くん……」

 朝岡さんはベッドに腰掛け、あたしにも隣に座るよううながした。あたしは黙ってベッドに座った。

「あんた、カネをくれる男なら誰とでも寝るのか?」

 やっぱりバレてる。あたしは唇を噛んでうなだれてみせた。

「坂下さんから話を聞いたんですか?」

「二十万であんたを買ったと言っていた。まさかとは思ったが、俺の部屋についてきたってことは、本当だったんだな。どうしてこんなことを……」

 このケースは想定済み。朝岡さんはもうあたしに恋しちゃってるし、ウリやってるとわかっても恋心が消えてないのは、いままでの態度から明らかだ。

「しょうがないじゃん。あたしの居場所なんてどこにもないし……。だからって、お金がないと生きてけないし。うち、お父さんいなくて貧乏だし。こんな方法しか思いつかないよ。貴志くん、軽蔑してるよね?」

 それとなく朝岡さんにもたれかかる。拒むそぶりはない。でも、まだ迷ってるのか?

「別に軽蔑とかじゃ……。でも、あんたがカラダを売っているというのは、正直……、ちょっとショックだ。いつからだ? きょうの誘いに応じたのもカネのためだろ」

「そうゆうこと言うんだ……」

 と、悲しい顔でつぶやいたあと、わざと明るい口調になって、

「貴志くんには知られたくなかったな。このあいだの公園デート、すごく楽しかったんだもん。また会いたいって言ってくれてすごくうれしかった。貴志くんはほかのお客さんとは違う。そう思えたんだ。だって、優しいもん。エヘヘ」

 涙ぐんだ目で朝岡さんを見つめ、すぐに恥ずかしそうに目をそらす。またうつむいて、

「こんな子……、やだよね」

 朝岡さんがあたしの肩をそっと抱きよせた。

「自分のこと、そんなふうに言うなよ」

 胸の奥がせつなくうずく。恋が始まる合図。もういいよね。

 ふたたび朝岡さんを見つめ、目を閉じた。

 唇がそっと触れて、また離れた。

 震えながら目を開けると、自然に涙がこぼれた。それに驚いて思わず苦笑い。

 朝岡さんにしがみついて胸に顔をうずめた。

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