第13話 目覚めた少女たち (01)

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 一条さんからメールが来ていた。久しぶりに会わないかという。

『あたしだってヒマじゃないんだから。ミーナちゃんと楽しんでればいいじゃん』

 返信。

 スマホの電源を切ってバッグにしまいこむと、ポケットから別のスマホを取り出した。

 いまから会うのは青山さんという自称大企業の採用担当の人。知り合ったのは就活相談の掲示板。お金に困ってると言ったら直接会って話そうと言ってきた。

 SNSで援交相手を探すのはやっぱり効率が悪いからやめた。まともな男性なら裏アカJKにメッセージを送ったりしないもんね。援交したい男性が集まる場所でまともな人を探すより、まともな人があつまる場所で援交したい男性を探す方がずっといい。

 待ち合わせのホテルのロビーに青山さんはいた。ソファに腰掛けてスマホをいじってる。清潔感のあるビジカジで、四十代だそうだけどもうすこし若く見えた。

 あたしは目印のベレー帽をかぶると、いま到着しました、とメッセージを送った。

 メッセージに気づいた青山さんが顔をあげ、すぐにあたしを見つけた。青山さんは立ち上がって会釈した。あたしは小走りに青山さんのところへ行くとおじぎをした。

「はじめまして、沙希といいます。青山さんですか?」

「はじめまして、沙希さん。青山です」

 あたしはおとなしめのワンピースに、大人っぽく見えるメイクをしていた。就活に不安を感じている学生、ということにしてある。まるっきりのウソというわけじゃない。実際、進路希望調査を提出できずにいる高校二年生なんだから。

 青山さんはあたしをラウンジに誘った。かすかにコロンが香る。女性の扱いには慣れてる様子。顔はまあまあだけど、落ち着いた雰囲気があって頼れる感じ。いかにもパパ活をやってそうなタイプだ。企業の採用担当者なんてウソに決まってる。

「沙希さんが思っていたよりずっとかわいらしい女性だったので、正直すこし戸惑っています。いま、一年生……、かな?」

「二年生です。あたしってそんなに幼く見えますか? このあいだも中学生に思われてしまって」

 言いながら、服装をもっと大人っぽくしてきた方がよかったかなと思った。青山さんは気を遣って一年生と言っただけで、ほんとうはもっと若く見られているんだろう。

「失礼。幼いと言うつもりはなかったんです。沙希さんは落ち着きがあって、しっかりした人に見えますよ。二年生か……。まだ本格的な就活をする時期じゃありませんね。情報収集というところかな?」

「はい。二年生が五月の時点でするべきことって何でしょうか?」

 あたしは思わせぶりな微笑みを作った。

「そうですね。情報収集というのはネットでもできますし、企業側もいろんな情報を出してますからね。そうしたものは当然活用するとして、いまの段階でしておいた方がいいことというと、まずは様々な経験を積んでおくことでしょうね」

「経験……? 勉強、部活、バイト、それから……、恋愛、とか?」

 あたしはゆっくり言葉を切って言った。青山さんの目の奥が光った。落とせそうな獲物として認識されたんだ。

「そう。恋愛も。若いうちはいろんな恋を経験するべきだよ。年の離れた社会人と接してみるのもいい。会社に入ったら様々な年齢の人が同じ職場にいる。学生時代と違ってね。慣れておくのは面接でもアドバンテージになる」

「青山さんみたいな素敵な大人の男性にいろいろ教えていただきたいです」

 あたしはテーブルの下でさりげなく青山さんの足に靴で触れた。ふたりとも言葉には出してないけど、これが就活の相談なんかじゃなくなっているのは分かっていた。

「沙希さんは母子家庭だから生活費や学費で苦労しているということだったけど。どれくらい必要なのかな?」

 来た! 話が早い人は好きだよ。

「先月バイト先がつぶれちゃって……。二十万は欲しいんですけど。でも最初から大人は怖いので、大人なしで八万から始めたいです」

「にじゅ……ッ!? それはちょっと、どうなんだ? 相場の三倍以上じゃないか」

「でも、あたし、高校生ですし」

「こ……ッ!? 大学二年生じゃないの!?」

「高校二年生、十六歳です」

 青山さんはテーブルに突っ伏して唸った。

「十六歳って……。どうりで幼く見えるわけだ。悪いけど、未成年はムリだよ」

「秘密は守ります。大人デートでリクルートスーツ着てきてもいいですよ」

「そうじゃなくて、犯罪だから。きみも痛い目見る前にやめた方がいい。この話はなかったということで頼むよ。じゃあ、ぼくは失礼する。ここは払っておくから」

 青山さんは、これ以上女子高生と席をともにするのはヤバいとでも言いたげに、あわてて立ち上がった。

「あのッ。名刺を渡しておきます。このメアドは今月いっぱい有効です。もし気が変わったら連絡ください。あたし、青山さんとまた会いたいです」

 青山さんはあたしの名刺をひったくると、さっさとラウンジを出て行ってしまった。

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