いろんなメイド喫茶のメイドさんたちがビラ配りをしているあいだをすり抜けて、連れていかれたのはコスプレ衣装を扱っているショップが入っている雑居ビルの前だった。十八歳未満は入店できないので、あたしは外で待つことになった。
人通りがおおい。通りすがりにあたしをまじまじと見ていく通行人が何人もいた。
でも、あたしがパンツを穿いてないことは気づいてないだろうな。
「ノーパン、ノーパン、あたしはノーパン、いまからイケメンさんに犯されちゃうの」
そんな歌をちいさく口ずさみながら、ひざでリズムを取っていると、田辺さんがおおきな紙の手提げ袋を持ってビルから出てきた。
「ふう、緊張した。こういう店があるのは知っていたが、入るのは初めてだ」
田辺さんの家はしばらく歩いた住宅街の中にあった。ワンルームのマンションの二階だ。
ドキドキする。これからこの人とセックスするんだ。
援助交際のために見知らぬ男性と密室でふたりきりになるっていうのは、この上なくリスキーな行為だ。ヘタをすれば殺されちゃう可能性だってある。田辺さんはいい人だと思うし、本名も住所も分かってるんだ。危ないことはないだろう。
部屋に入ると、中はほとんど家具がなかった。壁際にベッドとちいさなチェスト、窓際に机、机の上にはテレビも兼ねているらしいパソコンが一台。それだけだ。シンプルで生活感がない、というより無機質な感じの部屋だった。
田辺さんは机の引き出しからお札の束を取り出し、二十万円を数えるとあたしに差し出した。
「約束の金だ。全額前払いっていう話だったな」
「ありがとうございます。着替える前にシャワーをお借りしてもいいですか?」
新しいバスタオルを借りると、バッグを持って脱衣所のカーテンを閉めた。
シャワーを浴び、ボディソープで全身を入念に洗った。セーラー服には不釣合いな私服用のメイクも落としてしまう。十五歳なんだし、すっぴんには自信ある。これでさっきまでとは印象が変わる。男の人はそういう変化に弱いものだ。
バスルームを出ると、バッグの中身を荒らされてないか確認した。さっきもらったお金はそのままになっていた。田辺さんを信用しないわけじゃないけど、援助交際をするには用心も必要だ。
脱衣所に着替えが用意されていた。長袖の紺のセーラー服だった。襟とカフスには三本の白いライン。スカートは膝上十センチ。ソックスは白の三つ折り。白い綿ブラ綿パンのセットも用意されていた。事前に訊かれたからサイズは合ってる。セーラー服を着て、白の三角タイをタイ留めに通し、襟からのはみ出し方を整えた。
最後に、甘いフルーツ系の香水を、セーラー服の襟とスカートにプッシュ。コスプレセックスを要望する人は、セックスのときも女の子の服をぜんぶは脱がさない。
鏡の中の自分を見た。
まるでバージン。男性がイメージする清純な女子高生そのもの。
正直に言うと、田辺さんがあたしを買ってくれるとは思ってなかった。
冗談とはいえ、あたしは実際に呼び出されたわけだから、責任を取って欲しいとでも言えばパンツは買ってくれるだろうと思った。でも、本番の誘いは断られると思ってた。それなのにいきなり二十万円も払ってくれるなんて。
たぶん、いつもとは違ったものが食べたくなったんだろうな。きっと、ほんの気まぐれだ。本気であたしが欲しくなったわけじゃない。
成熟した大人の女が好みらしいけど、あたしには大人の魅力なんてないし、ションベン臭いガキにしか見えないだろう。あの人にとっては遊びのセックスだ。
だけど、あたしはそれじゃガマンできない。
あの人の女性遍歴の中で『特別な女』になりたい。
お金をもらって体を提供する。それだけだったら売春という単なる仕事だ。
援助交際は売春じゃない。
あたしは体を売る。
そのかわり、あたしは愛してほしいんだ。
部屋に戻って、セーラー服姿を披露した。田辺さんはジャケットを脱いでベッドに腰掛けていた。その前でクルッと回ってみせる。
「どうかな。似合う? きゃっ」
スカートがふわっと持ち上がったのをあわてて手で押さえた。もちろん演技。
あたしの様子を見て田辺さんが笑った。この人にはあたしの演技はお見通しかもしれないな。だとしても、それもかわいさのアピールになるってものだ。
「すっげー似合ってる。可憐だ。十五歳だと言ったな。とんでもなく背徳的だ」
あたしは田辺さんと並んでベッドに腰掛けた。腕と腕が触れ合った。ためらいがちに手をつないで、そっと指を絡めた。
「ふりでいいので……、いまだけ恋人になってください」
声が震えた。こんなセリフを言うのは怖い。援助交際するようなビッチがなに寝言ほざいてんだ、ってバカにされるかもしれないもの。
けれど、田辺さんの返事は予想もしないものだった。
「俺はきみをレイプしたいんだが」
[援交ダイアリー]
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