第10話 VS担任教師 (09)

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 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

「バカなこと言わないでよ。先生、いまのあたしの話、ちゃんと聞いてた? 何度も何度も強姦されてボロボロにされたんだよ。心を壊されてしまって、あたしは障害者手帳だって持ってるんだ。そんな高校生の女の子が学校の教師ふたりに、どっちが先にあいつをレイプするか競争しようぜって話し合ってるところを聞かされたんだよ。藤堂先生はあたしをレイプしようと狙ってるでしょ。あたしがどんな気持ちでいるかわかる? そんな子にどうしてヤらせろなんて言えるの?」

「すまない。そんなつもりじゃなかった。力ずくでなんて思っちゃいない。ただ、もう一度、客としてお前を指名したいだけで。援助交際ならいいんだろ?」

「見ず知らずのおじさんと担任の先生とじゃ話が違うよ」

「あの日のことは、いまでは申し訳なかったと思っている。俺は美星の担任で、お前は教え子だ。これから毎日、いやでも学校で顔を合わせる。あのときのことが原因で俺を嫌っているのだろう。だから、あの日のことをやり直したい。美星とはもうすこし良好な関係を築きたいんだ」

 先生はやさしいけれども力強く、ゆっくりした口調で言った。さすがベテランの教師という感じだ。騙そうとしてるのかもしれないけど、そうだとしても見破れなかった。

 真剣な気持ちで言っているように思えたので、あたしはすこし考えた。

 最初の出会いのとき、もしも先生が恋人のように振る舞ってくれて、素敵なセックスをしてくれていたら、どうだっただろう。始業式で再会を喜んだんじゃないだろうか。最初から嫌っていたわけじゃない。やさしそうな人だと思ったから身を任せたんだ。やり直せるものなら、あたしだってやり直したい。だけど、あの日、セックスの道具としておもちゃにされた。こんどだって体だけが目的じゃないとは言い切れない。

「あたしは高いよ?」

「いくら払えばいい?」

「前回は八万円だったけど、さっき先生が追い払った彼は十五万くれることになってたんだ。価値が上がってるわけ。今回は教え子プレミアムがつくから、ホ別、ゴムありで三十万てとこね」

「わかった。払うよ」

「払うよ、じゃないでしょっ! 先生の手取り月収と変わらない額のはずだよ。ちいさい子供が三人もいるのに、女を買うのに使っていい金額じゃないでしょうがっ。奥さんに申し訳ないとか考えないの!?」

 料金を聞いたら諦めるだろうと思って高い値段を提示したのに、なに即答してんだ。

 だけど、いまさら取り消すなんてできない。それに、ちょっとうれしかった。

 あたしは買われることに同意し、先生はATMでお金をおろした。このお金が原因で先生の家が家庭争議にでもなったら困るけど、結婚前からの個人口座だから心配するなと言われた。

 ホテルの部屋はこじんまりした和風モダンのおしゃれな雰囲気だった。ベッドのすぐ横がバスルームで、女の子がシャワーを浴びているところを男がベッドから眺められるように、全面ガラス張りになっていた。まあ、使うときはカーテンを閉めさせてもらうけど。

 担任の先生とラブホテルにいる、というのは思っていた以上に緊張する。

「あの……、あたし、シャワーを浴びたいので……。先生は先に服を脱いでベッドで待ってて。恥ずかしいので……、の、覗かないでくださいね」

 鏡に映った顔が真っ赤だ。

 シャワーを浴びながら思った。けっきょく藤堂先生は、あたしと援交したことを言いふらされないかと不安だっただけなのかもしれない。半年前に買った少女が赴任先のクラスにいたら、そりゃあ焦るだろう。あたしがどうしたらいいかさんざん悩んだのと同じように、先生も心配でたまらなかったに違いない。

 あたしも先生との出会いをやり直したい。

 バスルームを出ると、先生は裸になってベッドに入っていた。上半身を布団から出してあたしを待っている。

 裸を見られるのが恥ずかしくて、あたしは体を隠していたタオルを布団に入りながら床に投げ捨てた。

 ベッドの中で先生に体を寄せた。先生は手も足もひんやりしてた。この人も緊張してるんだ。先生はお腹も出てないし、ぜい肉もついていないけど、筋肉はあんまりない。だけど、男っぽい汗の匂いに股間をくすぐられた。藤堂先生の体臭には包み込まれるようなやさしさがある。

 胸がドキドキする。先生の顔を見れない。

「藤堂先生……。出会いをやり直したいという先生の言葉を信じます。なので、こんどは恋人としてやさしくしてください」

「美星……」

「ベッドの中では沙希って呼んでいいよ」

 先生はいとおしそうにあたしの頭をなでた。

「沙希……、またきみに会えてうれしい」

 おでこにキスされた。

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