人妻セーラー服(08)
あかねくんがくるみの結婚指輪を指してにらんでいた。普通にしてれば気づかれないかもと望みを持っていたけど、そうやって意識していれば妙な緊張感はあかねくんにも伝わってしまうのが当然だ。
(うわぁ、バレた。主婦が女子高生のコスプレしてるってバレた。おしまいだぁ)
きっとバカにされる、と思ってくるみは覚悟した。でも、あかねくんは、
「その指輪、男避けのつもりか? そこは結婚指輪をはめるところだぜ」
と言って、クスリと笑った。
さっと希望の光が差した。ぎりぎりバレてなかった。
「これは彼氏にもらったの。お揃いの指輪」
嘘は言ってない。しかし、あかねくんは疑うような視線を向けてきた。
「へえー、彼氏、ね。くるみ、付き合ってるヤツいるんだ。それにしちゃ、さっきナンパされて付いて行きそうに見えたけどな。もしかして尻軽女か?」
「んなわけ――」
と言いかけて言葉を切った。新婚ラブラブのくるみにとって、子供相手にムキになるようなことじゃない。くるみは余裕の表情であかねくんを見た。大人の余裕なんて、余裕のある大人なら誰だって意識せずに醸し出せるものだ。
「そういうあかねくんは女の子にすごくモテるんだろうけど、実際に付き合ったことはないんでしょ? 強がってるけど、ほんとは寂しがり屋の甘えん坊って感じ」
「なっ……」
今度はあかねくんの方が絶句した。実際、くるみの指摘したとおりだったからだ。
実は、この少年は女性不信に陥っていた。モテるのに彼女を作らないのはそのせいだ。彼は中学のとき、屋敷に出入りする年上の美しい女性に淡い恋心を抱いていた。それは父親の愛人だったのだが、彼女はベッドであかねくんと全裸で抱き合いながら、射精管理で弄んだ。キスも挿入もさせず、かわりに父親との過激な性行為を見せつけた。その愛人はやがて父親と別れて、いまは行方知れずだ。それ以来、あかねくんは女というものを信じることができなくなっていた。
もちろん、くるみはそんなあかねくんの事情は知らない。くるみはただ、こんなナルシストで上から目線で面倒くさいヤツは、いくらイケメンでも彼女はできないだろうと思っただけだった。まあ、悪いヤツではなさそうだが。
そんなわけで、くるみは軽い気持ちで当てこすっただけだったのだが、あかねくんの心のけっこう深いところに突き刺さってしまったのだった。
「ふん、俺にとっちゃ、女なんて性欲を満たすだけの存在さ」
と、あかねくんは強がりを言った。女なんてヤリ捨てするだけ、という意味で言ったつもりだが、父親の愛人を思い出して、女なんて自分の性欲を満たすことにしか興味がないのだ、という諦観が滲み出ていた。
くるみはあかねくんの言葉が強がりだと感づいていた。おまけに、この子は女性経験がないな、ということまで直感した。こういうことに関しては女の勘は鋭くなる。自分が惚れた男に対してはこの超能力は効かないんだけどね。
くるみが面白そうに自分を見つめているのに気づいたあかねくんは、ふてくされて頬杖をついた。
「くるみだって、彼氏とセックスしまくりなんだろ?」
と、あかねくんは馬鹿にするように言った。
この時点で、あかねくんはくるみに彼氏がいるというのは嘘だろうと踏んでいた。指輪は男避けではめているに違いない。この女はおそらくモテる。さきほどのナンパのように言い寄る男どもが多いのだろう。だから指輪で身を守っているのだ。などと、女性不信を自認しているくせに、くるみのことは信じようとしている純情なあかねくん。セックスしまくりなんて言ったのも、即座に否定されることを前提にした嫌味だ。
「もちろん、彼とはエッチしてるよ。愛し合ってるんだもん」(夫婦なんだからね)
くるみはニッコリして答えた。
ああ、そう来たか、とあかねくんは思った。
(くるみはあくまで処女ではないと言い張るつもりだな。高校生になって大人ぶりたい気持ちはわかるが、バレバレだぞ。変なヤツだからちょっと調子を狂わされたが、ここからは俺様のターンだ)
バレバレなのはお前だ。
あかねくんはアンニュイな仕草で髪をかきあげると、くるみをじっと見据えて、
「ハッキリ言うところが気に入ったぜ。くるみ、きょうからお前は俺の女だ。いまからラブホに行くから一緒に来い。彼氏のことなんて忘れさせてやる。これは命令だ。お前に拒否権ねえかんな。黙って俺に抱かれてろ」
くるみは目をパチクリさせた。
(バカなのか、こいつ。もしかして中二病というやつなのか。あかねくんはまだ高二だしな。たぶん冗談で言っているのだろうけど、さて、なんて返したものか)
と思っていると、くるみのスマホに着信があった。取り出して見ると、亮さんからのこんなメッセージ。
『ごめん。トラブルが起きて今日も遅くなる』
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