やがて、体の奥にそれまでとは別の感覚が生じた。
痛いような、気持ちいいような。
意識して確かめようとすると、するりと逃げてしまうような。
とらえどころのない感覚。
それまで奥を目指してきた男根が動きを止めている。
かわりに、体にからみつく触手がすこしだけ締め付けを増した。
爆発寸前だったマグマが急に動きを止めた。しかし、しぼんでしまう様子もない。
はじけたいのに最後のひと押しが足りない感じ。
行き場をなくした快感が苦しみに変わる。
息苦しくなった。
彩香の目の前では美緒があえぎ声をあげていた。美緒はさっきから何度も何度もイカされているように見える。
「ああああぁぁぁっっっ! あああぁぁぁっっっ!」
美緒が悲鳴とともに体をビクンビクンと震わせたかと思うと、股間から大量の液体をしたたらせた。脚を閉じた姿勢なので、液体が脚の間をつたって両足を濡らす。その液体は彩香の下半身も濡らし、下の巨大ショートケーキへとしたたった。
美緒の股間に埋もれた触手がピストン運動を繰り返しているのが見える。美緒の顔は苦悶の表情を浮かべているようにも見えるが、その表情は彩香がまだ知らない、想像を絶するほどの快感のためだというのは疑いようもない。
「美緒! そんなに感じちゃダメだ。ガマンするんだ」
美緒が激しく首を左右に振った。彩香の言うことを聞くはずがない。美緒は彩香を救うために、自分の方が先に、激しく、何度もイクことを目指しているのだ。
「ああっ……、彩香……、うくっ……!」
ふたたび美緒が全身をピクピクさせながらうめいた。
彩香の体内の男根はじっとしたままだ。
彩香は不安になった。
――不感症の女だと思われたのではないか?
それはそれで狙いどおりなのだが、このままでは仮に彩香が助かったとしても、美緒が食べられてしまう。
なんとかしなければ。
怪物は無数の触手を自在に操っているが、口はひとつしかない。美緒と彩香のどちらを先に食べるか迷わせることができれば、美緒のための時間をかせげる可能性がある。
どうしたら美緒のように何度もイクことができるのか。
美緒を助けるためには、美緒より先に、美緒より激しく、美緒より何度も、イク必要がある。人間の男と違って、おそらくこの怪物にはイッたフリは通用しないだろう。この触手は女をイカせるためだけに進化した究極の性器だ。経験不足の彩香が太刀打ちできる相手ではない。だから本当にイクしかないのに。
「ああっ、感じちゃうぅ……。彩香の指がアソコに入ってるぅ。彩香ぁ……好きぃ……」
おそらく美緒は彩香とのセックスを想像している。美緒にオカズにされている。同性愛のセックスを思い描きながら悶えている美緒を目の前にして、愉快な気持ちではいられない。親友であるだけに、嫌悪感すら覚える。
だからなのか――。
だから、自分は最後の快感を逃してしまったのか。
死を覚悟して、ずっと胸に秘めていた気持ちを打ち明けた美緒。
その美緒に対して嫌悪感をいだいている。
たぶん、そのせいで――。
大好きな親友をもうじき死なせてしまう。
彩香は自分自身を嫌悪した。
彩香はオナニーをしたことがほとんどなかった。高校生のころ、何度かおそるおそる試してみたが、下着の上からクリトリスをそっと触れてみる程度のことだ。美緒はどうだったのか。同性愛者の美緒の方が激しく感じている。もしかしたら美緒はひとりエッチで自分の性感を開発済なのかもしれない。
美緒の方が彩香よりも何倍も感じやすい体なのだと認めるしかなかった。
もっとオナニーをしておけばよかった、と彩香は高校生の頃の自分を責めた。
「美緒ッ! ダメだ! これ以上イッちゃダメだ」
彩香は涙を流しながら懇願した。
触手は美緒ばかりを攻め、彩香の中の男根はさっきからじっと動きを止めている。
胸の奥で恐怖心がふくらんでいくのを感じた。
美緒の『調理』は順調に進んでいるようなのに、自分は放置されている。
マズそうな肉として、いまにも捨てられてしまうのではないかと気が気ではなかった。
美緒を助けたい。
美緒のことが大好きなのだ。
代償が命だとしても構わない。
美緒を助けるためには、彩香が先にイクしかない。肉の旨味が十分に出てきたと怪物が納得するまで、何度も何度もイクしかない。
彩香は手首をひねって、自分を縛っている触手をつかんだ。そして全体重をかけて体を揺すりながら叫んだ。
「ちくしょう、このバケモノ! どうした、手が止まってるぞ。あたしのことをもっと気持ちよくさせろッ。何度もイキまくった女がお前の好みなんだろッ。あたしはまだぜんぜん気持ちよくなってないぜ、コンチクショー!」
怪物がその声を聞き届けてくれると期待していたわけではない。しかし、彩香が暴れたせいだろうか。美緒の体が、すぐ下に吊られていた彩香の上に落ちてきた。
「きゃあっ」
美緒は触手に吊られたままなので、落下の衝撃はそれほどではなかった。
しかし、美緒の乳房が自分の乳房に押し付けられ、股の間に美緒の両脚が割り込んでくるのを感じると、彩香の心は殴られたような衝撃に揺さぶられた。
自分を犠牲にしても美緒を助けたいという思いは、恋愛感情ではなく友情だ。
美緒のことはもちろん大好きなのだが、それは友達として好き、あるいは人間として好きということであって、美緒が彩香に寄せる想いとはまったく別種のものだ。
そのはずなのだ。
(同性愛なんかであるわけがない――)
彩香は怖くなって目をぎゅっと閉じた。
セックスの快感が津波のように押し寄せてきたのだ。
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