第14話 童貞のススメ (13)

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 初めてのセックスで女をイカせた――。

 童貞くんにとって最高のファンタジーだ。朝岡さんは「そ、そんなによかったか?」という顔で照れた。まあ、そんなに気持ちよくはなかったんだけど、ウリやってる子にとっては、女慣れしてない初々しくてやさしいセックスがご褒美なんだ。それに朝岡さんには素質があると感じた。いろいろ教えてあげれば、あたし好みのセックスをしてくれるテクニシャンに育つかもしれない。お金も持ってそうだし、リピーターになってもらうのもいいかもしれないな。

 アソコから朝岡さんの精液がたれてきた。それを見て、朝岡さんはいまさらながら生で中出ししてしまったことに青ざめた。

「大丈夫だよ。貴志くんのなら平気」

 生で中出ししたことない男はまだ童貞――、というのがあたしの考えなのだ。筆おろしのときはゴムなしで中に出させてあげる。むしろ、ゴム着けるからとか言われると、汚い子と思われてるんだなって泣いちゃうよ。

 朝岡さんが真顔であたしを見つめてきた。

「沙希……。ずっと前から沙希のことが好きだった。これからは俺が沙希を守るから」

 会って一週間もたってないのにオーバーな人だ。

「貴志くん……、そんなふうに言ってくれるの、すごくうれしい」

「だから、援交なんてもうやめろよ。好きでもない男に抱かれてつらい思いをする必要なんてない。あんたがずっと苦しんできたのはわかっている」

 あれれ? ちょっとガチ恋しすぎちゃった?

 色恋やってればこうゆうことは普通にある。あたしはお母さんみたいに箱でやってるわけじゃないから、危なくなったら切ればいい。それに危ないところギリギリを攻めるスリルも楽しいものだ。

「言ったでしょ? うち貧乏だし、お金がいるんだって」

「俺がなんとかするよ。バイトだって増やすし」

 そうゆうわけにはいかない。あたしは詐欺師じゃない。男からお金を巻き上げると言ったってサービスの対価として受け取るのであって、それで双方が楽しくハッピーになるのがあたしの望みだ。

「貴志くん、いまは興奮しすぎて冷静な判断ができない状態なんだよ。一週間くらいは落ち着いてよく考えてみて。あたしみたいな子と関わるのがどうゆうことなのか。そのあとでもう一度話そうよ」

 朝岡さんは不満そうな表情になったけど、怒り出したりはしなかった。

「わかった。日を改めてじっくり話し合おう。だけど、それまで援交はしないでほしい。今度の週末は高梨と会うんだろ? あいつとのデートはキャンセルしてくれ」

「理由もなく予約のキャンセルはできないよ。長時間のレンタルでギャラもいいし、あたしも助かるもの。高梨さんはあたしをただのレンタル彼女だと思ってるし、レンタル彼女が性的なサービスをしないのはあの人もわかってるって」

「あいつは沙希が自分に惚れてると勘違いしているんだ。そう自慢げに話しているんだからな。沙希にその気がなくても高梨はヤレると思っている。丸一日のレンタルなんて、添い寝だけで済むもんか。夜になったら襲われるに決まっている」

「まさか。高梨さんはいい人だよ。そんなことするわけない。大丈夫。あたしだって、別に高梨さんとセックスしたいわけじゃないし、お金をもらたからって誰とでもするわけじゃないもん」

 と、あたしはイライラする朝岡さんをなだめるように言った。朝岡さんが納得する様子はない。

「わかったよ。貴志くんがそこまで言うなら、高梨さんにはデートを延期してもらうよう頼んでみる。それならいいでしょ?」

 なおも不満そうな朝岡さんの背中に腕を回して二回戦にいざなう。

「沙希のことが好きなんだ。これまで生きてきて、好きになったのは沙希だけだ」

「あたしも貴志くんみたいな人が好き」

 朝岡さんがあたしの上になってキスをくれた。強く抱きしめてくれた。刹那の恋が燃え上がる。二人で抱き合ってキスをむさぼり合った。

「貴志くん……、貴志くん……、しよう。いっぱいしよう。あたしの中を貴志くんでいっぱいにして。これまであたしを抱いた男たちのことを、ぜんぶ消し去って。お願い、貴志くん。お願い」

 けっきょく、四回目で朝倉さんの精液が空になった。夕方まで抱き合ってすこし眠ったあと、シャワーを浴びてマンションを出た。駅で別れるとき、「また連絡する」と朝岡さんが複雑な表情で言った。風俗嬢に恋した男特有の苦しそうな顔だ。あたしは顔を伏せたまま「料金はいつも通りだから」とだけ言って、振り返らずに改札を駆け抜けた。あたしも好きだけど風俗嬢だから応えられないという悲しみ――、ガチ恋客は勝手にそう誤解する。罪悪感はあるに決まってる。でも、それもスパイスだ。

 木曜日と金曜日の中間テストの日程は問題なく終わった。

 そして金曜の午後。

 きょうは高梨さんの筆おろしだ。

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