異次元を覗くエステ (09)
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触手に捕らえられる寸前、美緒が彩香を突き飛ばした。彩香は生クリームの中に突っ伏した。顔中を生クリームまみれにして体を起こすと、何本もの触手が美緒の体にからみついたところだった。
「逃げて! 彩香!」
「美緒ッ!」
美緒は頭上に顔を向けると、大声を張り上げた。
「お願い! 彩香は帰してあげて! わたしの大好きな友達を助けて! 食べるのはわたしだけにしてよ!」
怪物に言葉が通じるかもしれないと思ったのか、それとも、あの店員がまだどこかで見ていると思ったのかもしれない。だがもちろん、そんな願いは聞き届けられるはずもなかった。
両手両足と肩と腰に触手が巻きつき、美緒の体をゆっくりと持ち上げた。
彩香は立ち上がって生クリームの中をずぼずぼと美緒の方へ駆け寄った。
しかし、もう美緒は手の届かない高さにあった。
「彩香、あなただけでも逃げて!」
逃げ道がないのはもうわかっているし、美緒を見捨てていけるわけがない。
どちらにしても、別の触手の群れが背後から彩香にからみついてきて、逃げることはできなくなった。
一瞬のうちに彩香は身動きできなくなり、空中に持ち上げられた。
彩香は両手首を頭の上で固定され、膝を曲げた状態で両脚を開かされた。やや後ろに寝かされた姿勢だが、下から触手が支えているので苦痛はない。むしろ、体重をなくして空中に浮かんでいるような感じだ。
美緒は彩香に覆いかぶさるような位置に吊られている。両腕を後ろ手に固定され、両脚を開かされて、体をくの字にしてお尻を大きく突き上げるような姿勢だ。触手の群れが美緒の全身をまさぐる。美緒が体をよじると、そのたびに美緒の乳房がふるふると揺れた。抵抗を封じるように、何本もの触手が美緒の股間に群がった。
「あああっ、いやぁぁぁっ」
美緒が全身を震わせながら悲鳴をあげた。
手を伸ばすことさえできれば美緒に触れられるほど近くにいるのに。
彩香にはどうすることもできない。
彩香の眼前に一本の触手が鎌首をもたげた。その先端が裂け、中から何やら赤いものがにゅるっと飛び出した。
舌だ。
人間の舌よりずっと大きい。まるで牛の舌だ。
間髪を入れず、その舌が彩香の唇に押し付けられた。
熱い。
舌はそれ自体が独立した生き物のようにクネクネとのたうち、彩香の口をこじあけて中に侵入してきた。
顔を左右に振って逃れようとするが、無駄な抵抗だった。
「んむっ、んんっ……」
あまりに太いため彩香の口には入りきらない。先端部分を押し込まれただけで声を出すことができなくなった。触手の舌は彩香の舌を舐めまわす。
その舌のざらついた表面からは透明な粘液が滲みだしていた。粘液はメープルシロップのような味がする。彩香の口の端から垂れて、乳房を濡らした。
締め付けられるような感じはしないものの、触手はがっちりと固くなっていて、とても振り払うことはできない。
それでなくとも、怪物に強引なキスをむさぼられたショックで、彩香は体の力が抜けてしまった。
首筋に別の舌が這うのを感じた。
さらに別の舌が鎖骨に沿って彩香の体を舐める。
無数の触手の先端から次々に太い舌が飛び出すのが見えた。彩香を覆う生クリームとチョコレートを舐め取るように、何十という舌が一斉に彩香を舐め始めた。
脇の下を舐められると背中がゾクソクッとなった。くすぐったいのとはすこし違う。つづけて脇の下を舐められていると体の奥が熱くなってくる。彩香は身をよじった。
性的な快感を覚えているのだ。
わけがわからなかった。この状況で感じてしまうなんて。
太ももの内側を舐められている。
背中を背骨に沿って舐めあげられる。
お腹を舐めまわされる。
足の指を、耳の中を、手のひらを――。
執拗に舐めまわされる。
徐々に快感が高まっていくのを止められない。
怪物は肝心な部位――胸と股間への攻めを巧妙に避けている。そのせいで――。
期待してしまう。
彩香は自分を責めた。ありえない。早くアソコを舐めて欲しいと思うなんて。
美緒の悲鳴が嬌声まじりになっているのに気づいた。美緒も同じように感じてしまっているのだろう。
怪物の意図がわからない。どうして一思いに食べてしまわないのだろう。感じさせてどうしようというのだろう。おそらく――と彩香は思った――、オーガズムの状態になったときが怪物にとって女の肉が一番美味しくなるのだ。
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