第14話 童貞のススメ (05)

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 ドン引きした。けど、あたしの反応に気づく余裕もないらしくて目が泳いでる。こりゃ女性にはモテないだろうね。ちょっとムッとしたけど、すぐに冷静になった。

 さて、どうしたものだろう。

 この二人を誘惑してからかってやるのも一興だけど……。

「あの……、坂下さんのお知り合いですか?」

「同じ大学なんだ。高校の同級生で……」

 その人は会話に乗ってくれたことがうれしかったのか、表情がパッと明るくなった。

 Fランならこの場でバイバイだけど、坂下さんと大学が同じならまずまずの学校だ。もうすこし様子を見てみよう。

「それで、あたしと坂下さんのデートを覗いてたんですか? まさか後をつけたりとかしてないでしょうね」

 意地悪く言うと、恐縮した様子で目をそらした。もう一人の黒い人に目をやると、こちらは不機嫌そうな様子であたしをにらんでいる。もしかしてラブホテルに出入りするところを見られちゃったりしたんだろうか。

「後をつけたりはしてないよ。喫茶店から出てくるところを見かけて、手をつないだり腕を組んだりしてたから、あいつにも彼女ができたのかと思って」

「それで後をつけて行ったんだが、お前たちが有料の自然公園に入って行ったんで、尾行はあきらめた」

 と、黒い人が付け加えた。やっぱり後をつけてたんじゃないか。でも、援交現場を目撃されたわけじゃない。それにしても、初対面でお前呼ばわりとかムカつくヤツだ。

「それで? あたしが坂下さんとデートしたことが何か? ひょっとして、友達にあたしみたいな美少女の恋人ができたことが悔しいんですかぁ? プププ、お兄さんって、あんまりモテなさそうですもんね」

 からかうと図星を刺された黒い人は目をむいた。

「何が恋人だ。坂下のヤツを問い詰めたら白状したぞ。初めて会った女子高生にカネを払ってデートしてもらったってな。あんなオタクの童貞野郎に彼女ができるなんておかしいと思ったんだ。お前、カネをくれる男なら誰とでもデートするのかよ」

「おい、朝岡、そんなに突っかかるなよ。ゴメンネ、きみ。で、最初の話に戻るんだけど、つまり、きみはレンタル彼女なの? 坂下はきみがどこのお店の所属なのか聞かなかったっていうんだけど。どういうシステムなのかな、なんて……、ハハハ……」

 七分丈パンツの人は気弱そうに笑った。朝岡と呼ばれた黒い人は腕組みをしてあたしを見下ろしている。うさんくさい女だと思われているようだな。

 この人、あたしをレンタルしたがってるってことだよね。それを黒い人が、こんなビッチやめとけよ、と忠告してるって構図だな。

 レンタル彼女か。そんな生易しいもんじゃないんだけどね。

 この人たちはあたしが坂下さんとセックスしたことまでは知らない。援交してるとは思ってない。その気にさせてやろうか。特に朝岡、お前だって内心あたしとヤりたいと思ってるんだろ? なんなら二人まとめて相手をしてやってもいい。3Pだ。

 うーん。

 3Pはハードル高いな。童貞ならうまくできないだろうし。きのうの集団強姦未遂をみてもあたしに3Pはまだちょっとムリっぽいし。じゃあ、二人同時に落として三角関係を演出するのはどうかな。親友同士が同じ女を取り合う。恋愛シチュとしてはなかなかだ。ヤらせてあげてもいい。ダブルNTRで身悶える経験をさせてあげようか。

 ファッションはダサいけどいちおう清潔にはしてるし、女慣れしてないけど会話ができないほどコミュ障でもない。ダメなのは草食のくせに性欲を隠しきれてないところ。男だから下心があるのはあたりまえ。それを顔に出しちゃダメ。いい男というのはやせ我慢ができるものなんだよ。まあ、あたしが年上好きだからそう思うだけで、大学生なんてだいたい精神的に未熟なものかもしれない。

 あとはお金を払えるかどうかだ。

 あたしは椅子に座り直して背筋を伸ばした。

「二時間で三万円、延長一時間ごとに苺です。デートの費用は全額お客さま持ち。きょうの午後なら空いてますけど、どうしますか?」

 この程度の料金で「ちょっと高いな」とか言う男ならここでさよならだ。

 七分丈パンツさんが黒い人の方に、どうしよう? という顔を向けた。自分で決めろよ。

 いつまでも迷っているので、あたしは立ち上がってトレーを片付けようとした。

「あ、待って。払うよ。二時間。いま手持ちが四万しかなくて」

 それを聞いて、あたしは黒い人にあざとい笑顔を見せた。

「朝岡さん。朝岡さんもそれでいいですか? それとも朝岡さんって、ちょっとカッコいいタイプだから、もう彼女いるのかなぁ」

 黒い人は戸惑った様子で目を泳がせた。なんで俺の名前を知ってるんだ、という顔。名前を呼ぶのは基本テク。今度は朝岡さんが七分丈パンツさんの方に、どうする? という顔を向けた。七分丈パンツさんも一人じゃ不安だと思ったのか、それとも早く決めないと逃げられると思ったのか、小刻みにうなずいて返事をうながした。

「決まりですね。あたし、沙希っていいます。高校二年、十六歳。よろしくね」

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