先生はけっきょくあたしとセックスはしなかった。あたしたちは時間がくるまで、服を着たままベッドで抱き合った。ときおり見つめ合って、恋人同士のようにキスを交わした。とてもしあわせな気持ちに浸ることができた。
下田先生がホテルを出たことを盗聴アプリで確認すると、あたしたちもホテルを出た。それからマコちゃんと合流して、カメラを返してもらった。マコちゃんは事情を何も知らないのに、おもしろがって頑張ってくれた。
「シモちゃんは確かにおもしろい人だったけど、あっちの方はあんまりうまくなかった。それに、あなたの言ったようにバカだったよ。おかげで思ったより恥ずかしい動画が撮れたけど。そっちもシモちゃんとエッチしたの? してない? そうか。しなくていいと思うよ。まあ、もう一回したくなる相手じゃないかな」
あたしはボーナスを付けてお礼に五万円を渡した。
こうして月曜日のお昼までには、学校の女子生徒のあいだに下田先生の噂が広がっていた。全裸の下田先生がブラジャーをつけて、パンツ――というか、この場合はパンティーと言った方がいいのか――を顔に被って、ちんちんを振り回しながら歌って踊る、という動画が拡散したのだ。よく知らないが、そんなようなキャラクターが主人公の少年マンガがあるらしい。いちおう、ちんちんのところにはぼかしを入れておいてやった。
正直、楽しい先生として話題になってしまうかもという不安もあった。そこで第二弾の動画が夕方から広がり始める。路地で制服ギャルのマコちゃんを赤ちゃん言葉で口説きながらラブホテルへと入っていくやつだ。マコちゃんの顔と声がわからないよう加工しておいたけど、下田先生の方はもろ出しだ。ここでマコちゃんは、女子高生なんてみんなヤリマンで臭い、というセリフを下田先生から引き出してくれていた。
火曜日の朝になると、下田先生は自分に対する全校生徒の態度が急に変わったことに戸惑ったようだけど、何が起きたのかはまだ気づいていない。でも、今日中には学校側にも知れて、決着をみるだろう。
下田先生が流した藤堂先生の噂はすっかり消えた。替わりに藤堂先生の評判をあげる噂が流れた。藤堂先生がいたのは男子校だから女子生徒へのセクハラなんてありえない、むしろ不正を暴いたヒーローだった、始業式翌日の服装検査でのやりとりも下田先生のセクハラから女子生徒を守ろうとした行為だったのだ、という内容だ。それとなく三ツ沢さんに話したらすぐに広まった。
あとひとつ。やっておくことがある。
あたしは昼休みに藤堂先生を屋上に呼び出した。
「そういえば、先週も話があるって呼び出されたんだったな。そのときの話かい?」
「それは日曜日に話したからもういいんだ。きょうは別の話」
そこで言いよどんだ。考えておいたセリフが出てこない。好きな人に告白する女の子の心境はきっとこんな感じなんだろうな。
あたしは深呼吸をひとつすると、思い切って口を開いた。
「あたしは援助交際をしています。これからもやめるつもりはありません」
「危ないことはしないでほしいが、俺にお前を止める資格はない。お前の過去を知っていてやめろとも言えない。秘密は守る。心配するな。話というのはそれか?」
あたしはうつむいて首を横に振った。
「あのぉ、これはとても図々しいお願いというか、提案なのですけども、だから断ってもいいのですけど……。料金を安くするので、あたしとときどきエッチなことをする関係になりませんか?」
「俺は教師だぞ。それに妻子持ちだ」
「先生は緊縛プレイをしたいし、あたしはまた縛られてみたい。先生はアレがうまくできなくて困っているし、あたしは直してあげたい。先生は奥さんがいるし、あたしはほかの人にも抱かれる。恋人になってほしいわけじゃないです。あたしみたいな子にちゃんとした恋人ができるわけないもの。あたしは……。こうゆうのダメですか?」
「ダメというか、なんというか……」
「これは援助交際のサブスクです。ふりでいいので、学校にいるあいだは先生と恋人ごっこをしたい」
藤堂先生は長いこと考え込んだあとで、観念したようにふうっと息を吐いた。
「美星のおかげでどうやらこの学校でやっていけそうだと思っていたが……。なんだかまた不安になってきたな」
先生はあたしをそっと抱きしめてくれた。
こうして新学期が始まった。なんだかステキなことが起こりそうだ。
第10話 おわり
[援交ダイアリー]
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