おもしろがってノーパン、ノーブラで授業を受けていた操だったが、四時限目にもなるとさすがに飽きた。四時限目がたまたま矢萩の数学で、操はノーブラの胸を強調しながら、授業そっちのけで矢萩にスキスキ光線を送っていたのだが、矢萩は見事なスルーぶりだった。それで昼休みのチャイムが鳴ると、トイレで下着を身につけ、教室に戻った。
真琴と、もう一人の友人である鹿島聡子が、机を寄せてお昼ご飯の用意をしていた。操が来るのを待ってくれていたようだ。
「遅くなってごめーん」
操が席に着くと、三人は弁当を広げた。
「でさー、相沢。いま大友さんとも話してたんだけどね。このあいだの中間テストの数学なんだけどね。大友さんの点数が百十点になってたんだけどね」
聡子が言った。ちょうど矢萩の数学で中間テストの答案を返されたところだった。
「ああ、あたしは百十五点だったよ。あたし、数学はいつもだいたい百十点から百二十点のあいだだけど」
「なにー!?」
「矢萩先生って、百点の答案にはおまけの点数をつけてくれることがあるんだよね。あたしも最初、なにこれって思ったんで訊いてみたら、解法の数学的美しさを評価した芸術点なんだって。あと、字がきれいな答案にもおまけくれるみたい。もちろん、公式記録というか正式なテストの点数は百点のままで、百点以上になるわけじゃないよ」
操の説明を聞いた聡子は、自分の五十五点の答案を広げた。
「わたしだって、字がきれいで丁寧な解き方してるのにぃ」
「聡子の場合は、あたしや操のと違って、答えが間違ってるじゃん」
「全問正解でないとおまけ点はくれないよ。さっきも言ったけど、おまけ点は正式点数にはならないんだから。八十点の答案におまけを加算して九十点になる、なんてことはないんだよ」
「なるほど。あたしは数学はいつも九十点台で、満点取ったのは今回が初めてだからな。それでいままでおまけ点を見たことがなかったのか。つまり、操は毎回数学で満点を取ってるってことだよな」
真琴のセリフに、聡子は答案用紙で顔を覆った。
「かーっ、数学のテストでいつも満点とか、いつも九十点以上とか、どーゆー人種よ、あんたたち」
「そんなに悲観することないじゃん。あたしら文系クラスなんだし。数学でもそこそこ点を取れてれば、入試だって大丈夫だろ」
そう言ってから、真琴は操に申し訳なさそうな視線を投げた。操は真琴の心中を察して、言った。
「いいよ。あたしは別に大学行きたいってわけじゃないし」
聡子が操に向き直って、
「なにそれ、どういう意味?」
「あたし、大学には行かないんだ」
操が軽い調子で答えた。
「えーっ、テストの成績がいつも学年で十位以内に入っている相沢が? 矢萩に個人的に数学を教えてもらってるほど勉強好きな相沢が?」
「よしなよ、聡子。事情は人それぞれだろ」
真琴が聡子をたしなめたが、操は気にしてないというふうに笑顔で言った。
「あたしんち、母子家庭でしょ。貧乏ってわけじゃないけど、それほど裕福でもないし。弟がいるから、大学に行くお金があるなら、弟のためにとっておいてあげたいもの。大学出てたほうが就職後の給料が増えるだろうし、弟には大学行かせてあげたいのよ。あたしも勉強するのは好きだよ。でも、正直、大学に行ってどうこうしたいとも思ってないし、大学でなくても勉強できると思うから」
「じゃあ、就職するの?」
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