パパ活注意報!

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 元麻布、仙台坂上にあるイタリアンレストラン。

 その重い扉の奥にあるのは、ジャズミュージックが流れる都会の隠れ家。土曜日夕方のこの店のウェイティングバーは常連客が集まってにぎやかになるんです。


  🎵 When Lights Are Low 🎵


「いらっしゃいませ」

「やあ、アンジェロ。ウイスキー、いつもの」

「かしこまりました」

 ふうむ、それにしても、きょうはなんだかカップルのお客が目立ちますね。しかも、五十代と思われる年配の男性とどう見ても二十代前半の女性の組み合わせばかり。

 親子――、という雰囲気でもありませんが……。職場の上司と部下、でしょうか。

「あっ、おじさん。またお会いしましたね」

 ん? この女性は先月この店で声をかけてきた子ですね。名前は確か――。

「やあ、サキちゃん」

「おとなり、いいですか? あ、アンジェロさん、あたし、カルーアミルク」

 笑顔で堂々と注文していますが、前回お会いしたときには高校二年生だと言っていたんですよ。カルーアミルクがお酒だと知らないわけでもないでしょうし。大丈夫なんでしょうか。

 でも――。


『あたし、援助交際してるんですよね。おじさんだったら諭吉七枚でいいよ』


 などと言っていましたし。ウソかホントか、たぶんからかわれているだけなんでしょうけど。高校生だというのも私をからかっているだけなのでしょうね。そもそも女子高生がこんなおじさんを本気で誘ってくるなんてあるわけないですし。

「おじさん、さっきからキョロキョロしてますけど、またほかのお客さんの会話を盗み聞きですか?」

「いやね、きょうは年の離れたカップルが多いなと思いまして。父と娘かな、なんて思っていたんですよ」

「ああ、そういうことですか。あれって、みんなパパ活ですよ」

「パ……」

 パパ活……。

 その単語は私も知っています。若い女性が金銭を受け取っておじさんと一緒に食事をする行為、でしたか。

「つまり、擬似的な恋人として、デートというか、レストランでディナーをするわけですか」

「まあ、食事だけってこともあるけど、ほとんどの人はセックスもしますよ。その方が楽だし、お金もたくさんもらえますからね」

「え? ほとんどの人が? そうなんですか? これは認識を改めないといけないようですね。いやはや、うちの大学の女子学生はそんなことはしていないと信じたいものです。しかし、性行為をするほうが楽、というのはどういうことですか?」

「男性の側はみんなセックスしたいわけですよ。そんな相手をセックスなしで満足させるには、ものすごく美人だとか、ものすごくトークが楽しいとか、なにかすごい付加価値がないとダメじゃないですか。でも、セックスありの関係なら、ヤラせてあげるだけで済むので、女性の側は手間がかからないんです」

 いやぁ、なんだかすごい世界があったものです。

「でも、それって、その……、『売春』ということになるんじゃないの?」

「お金が欲しくて誰でもいいからセックスする、というなら売春ですね。あ、ちょうど奥のカウンターでパパ活カップルが値段の交渉をしていますよ。あのふたりの会話にちょっと――」

「聞き耳を立ててみましょうか」


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「……そんなわけで、ぼくとしては大人の関係を望んでいるんだけど、その場合、きみが考えているお手当の条件はどうなるかな?」

「大人……ですか?」

「きみとはもっと親しくなりたいと思っているんだよ。二回目の誘いにも応じてくれたんだし、ぼくのことが気に入らないというわけでもないんだよね?」

「それはもう。すごく素敵な方に巡り会えて幸運だったと思っています。大人……。そうですね。顔合わせのときは1でしたけど、大人のデートなら15はいただきたいと思っています。それでもし気に入っていただけて、月極を望んでいただけるなら、50で考えています」

「たしか、二十三歳だと言っていたね。きみは美人だしスタイルもいい。強気になるのも当然だ」

「あの……、わたし、パパ活とか初めてで、あまり勝手がよくわからないのですけれど。学生時代は学業とバイトで忙しくて彼氏もできなかったですから」

「なにか、お金に困っているのかい?」

「奨学金の返済が思っていたよりキツくて。新入社員のお給料だけじゃ……。今の時代、この先も昇給どころか会社自体がどうなるかもわかりませんし」

「なるほどね。たしかに若い人にとっては大変な時代だ」

「ですから、これからの時代を生き抜いていくためにもっとスキルを身に付けなきゃって思っているんです。それで海外留学してもっと勉強したいと思っていて。パパみたいに外資系の投資銀行のマネージングディレクター、とまではいかなくても、バリバリ働いて社会に貢献したいんです」

「すばらしい考えだね。きみみたいな子なら、きっとほかのパパも応援したいと思ってお手当をはずんでくれてるんだろうな」

「実は、母が病気で……。もう何年も入退院を繰り返していて、その治療費もかなりかかっているんです。母にはわたしが大学に行くためにずいぶん苦労をかけてしまったので、なんとかいいお医者さんに診てもらいたいですし」

「それは大変だ。ぼくが力になれたらよいのだけど。お父さんはどうしているの?」

「父は……、父は今年、会社をリストラされてしまって……。まだ働き盛りなのに、再就職の当てもなくて……。ほら、いまは難しい時代じゃないですか」

「まったくだ。ご両親のことは心配だね」

「でも、本当に心配なのは弟と妹のことで……」

「ま、まだあるのかい?」

「弟は高校生で、来年受験なんです。わたしと違って頭がよくて成績もいいんですが、このままじゃ大学の学費が……。妹は将来パティシエになりたいって言っていて、その夢もかなえてあげたい。お姉ちゃんのわたしがもっと頑張らないと……」

「わかったわかった。きみがお金を欲しがっていることはよくわかったよ」

「それじゃ、月極にしていただけますか?」

「あいにく、ぼくは金づるだと思われることには我慢ならないんだよ。きみは別に援助を必要とはしていないようだね。ひとつアドバイスだが、貧乏でウブな設定なら、ブランド物は身に着けないことだ」

「え? あ、これはプレゼントで――。あ……」

「ぼくはこれで失礼するよ。お金ならほかのパパたちにせびるといい」

「ちがうんです、これは……、あの、これはですね――、あ、待ってください! 待って……、って、チクショー」


  🎵 Billie Holiday - All of Me 🎵


 おやおや、男性の方は店を出ていってしまいました。これは交渉決裂したということでしょうか。女性の方はずいぶんと大変な身の上だったようですけど。

「ふふふ、あの女の人、設定盛りすぎ。ステラのワンピにロエベのバッグを見せつけておいて母の入院費が、とかないわ」

「え? あの話、もしかして全部ウソだったんですか?」

「あたりまえじゃないですか。相手を騙すときは、真実の中にウソを混ぜるのが基本。ぜんぶウソで固めたら、そりゃバレますよ」

 うーん、冷静になって先程の会話を思い返してみると、たしかにウソっぽいところが多かったですね。

「先程の男性はよくウソを見抜けましたね」

「あの人はパパ活に慣れてるみたいでしたね。交渉が単刀直入で無駄がなかったですもの。外資のMDということは年収は四千から五千万円くらいかしら。女性の方もパパ活の経験は豊富で、ほかのパパからけっこうもらってるみたい。美人だしね。でも、あせって値段を吊り上げようとしたのが失敗でした。せっかくの太パパを逃しちゃいました」

「そういえば、月極で50、とか言っていましたが、あれはどういう意味なんでしょう?」

「月額50万円で愛人になりますという意味ですよ。デートのたびにお金をもらうのではなく、月単位でまとめてお金を払ってもらうんです」

「ははーん。いま流行りのサブスクみたいなものですか」

「最近は諭吉何枚って言い方はせずに、数字だけで言うんですよ。食事だけのデートなら3、とかいう具合に。ちょっと味気ないなって思うんですよね。パパ活っていう言葉も、援助交際に比べてドライな感じがするから好きじゃないな。どんな呼び方をしようと売春であることに変わりはない、って言う人がいますけど、実際はもっとロマンチックなものなんですよ」

「私にはよくわかりませんが。そういえば、壁際のボックス席の男女。なかなかいい雰囲気に見えますが、あれもパパ活なんですか?」

「そうですよ。同業者が見ればすぐわかるものです」

「ふーむ、サキちゃんの話を聞いていたら、何を話しているのか気になってきましたね。こんどはあちらの会話に聞き耳を立ててみましょう」


   🍒   🍒   🍒


「……じゃあ、これが今月分」

「あ……」

「どうぞ。封筒の中身を確かめてみて」

「……。はい、確かに、20あります……」

「なんだか元気ないみたいだね。何か心配事? ぼくでよかったら話くらい聞くよ?」

「その……、顔合わせから三ヶ月、先月からは定期にしてくれたけど……、先月は三回しか会えなくて……」

「それは気にしなくていいんだよ。ぼくはきみの夢を応援したいからパパになったんだし。週イチという条件だったけど、会う回数が少なかったからといってお金を返してほしいなんて言わないさ」

「あ、違うんです。パパにはすごく感謝しています。いつも親身になってくれて、ベッドでもすごくやさしくしてくれるし。こんな、わたしみたいな子をひとりの人間として扱ってくれて。もちろん、パパには家庭があるから、わたしのことはカラダが目的だって、分かっているんですけど」

「おいおい、そんな言い方をすると怒るよ? きみのとても頑張り屋さんなところが好きなんだ。そんなきみだから力になりたいと思ったんだよ。もちろん、きみはすごくキレイでカワイイ女の子だしね」

「そんな……」

「それに、ぼくもきみから多くのものをもらっているよ。一緒にいると、すごく癒やされるんだ。会社を経営していると毎日神経をすり減らす事ばかりだからね。ぼくの方こそ、きみみたいな若くて美人の子がこんなおじさんなんかとデートして、本当は嫌なんじゃないかな、って不安になる」

「そんなことは……!」

「ハハハ、冗談だよ」

「あの……、もしパパがよければ……、週二回会うことにしませんか? いえ、二回会うのは隔週でもいいです。わたし、もっとパパと――」

「ああ、そういうこと。なあんだ、お手当をアップしてほしかったんだね。会う回数を倍にするからお手当も二倍に増やしてほしい、と」

「あの……、そういうことじゃなく……」

「ふふふ、そうだね、出会って三ヶ月も経つと、そろそろ値上げ交渉をしたくなる時期だよね。そうか、きみはほかの子と違ってブランド物をねだったりしないし、気立てもいい子だからね。わかった。会うのは週イチのままでいいから値上げしちゃおう」

「違うんです! お手当を値上げしたいとかじゃありません。……お金は、もういいんです」

「え?」

「ほかのパパとはお別れしました。アプリも削除しました。わたし……パパが好きです。本気になっちゃったんです。だから、お金はいらないので、もっとパパと会いたい」

「おいおい、ぼくは結婚しているんだよ?」

「最初の顔合わせのとき、奥さんとはうまく行ってないっておっしゃってたじゃないですか。奥さんが浮気してるから自分も腹いせにパパ活してやるんだって。カネで買った女と遊んでやるんだって。パパ活で知り合った人だけど、パパを愛してます。パパもさっきわたしのことが好きだって……」

「ちょっと、落ち着いて」

「お子さんが成人するまで待ちます。待ちますからッ」

「いや、そういうことじゃなくてね……」

「赤ちゃんできたんですッ」

「え……?」

「妊娠10週目だって……。パパの子です」

「そんな……。いやいや、タイミング的にぼくの子供とは限らないよね。その頃はほかにもパパがいたんでしょ?」

「だけど、もうパパしかいないものッ」

「悪いけど、きみとはこれまでだ。そのお金はあげるから、手術代にでもするといい。じゃあ、ぼくは失礼するよ」

「待って、パパ、捨てないでッ。うわァァァァん!!」


  🎵 Nat King Cole - Love Is the Thing 🎵


 フッフッフッ、パパ活アプリでどんな女が釣れるかと思ったが。

 いまシャワーを浴びている彼女、とんでもない上玉じゃねえか。

 顔合わせだけのつもりだっていうのを強引にホテルまで連れてきたわけだが。

 まあ、ホテルに連れ込んじまえばこっちのものよ。

 ククク、10万円の札束に釣られてノコノコついて来やがって、バカ女が。

 お前らみたいなヤリマンのパパ活女子にはビタ一文だって払うつもりはねえぜ。

 このカネが実はオモチャだと気づいたときにはもう遅い。

 ガンガン突きまくってヘロヘロにしてやるぜ。

 パパ活なんて言い換えたところで、所詮は売春。

 そんな社会のダニを懲らしめてやるのさ。



 うわぁぁぁ、どうしようどうしよう。

 顔合わせでちょっとからかってやるだけのつもりだったのに。

 ホテルまで来てしまった。

 カネだけもらって逃げるつもりでいたけど、まだチャンスがない。

 すぐそこに裸のオッサンがいるのにオレまで全裸でシャワー浴びてどうする。

 くそっ、姉ちゃんの服を着たら似合いすぎてたから調子にのって外に出たが。

 完パスしていい気になってたオレがバカだった。

 男だってバレたら何をされるかわからねえ。

 いや、早めに男だって打ち明けて謝った方がいいんじゃないのか?

 オレはそっち系じゃないんだからな。



「ちょっ……、お前、男だったのか……」

「だから、悪かったよ。どこまで女で通用するか試してみたかっただけだ」

「マジかよ。すっかり女だと信じていたぜ」

「おい、ジロジロ見るなよ。オッサンに見られると鳥肌立つぜ」

「いや、お前の肌、キレイだな……」

「え? ちょっ……、ヤメロォォォ!」

 むちゅぅぅぅ、むちゅっ、むちゅっ、んんむちゅうぅぅぅ、ブボッ

「うわわわっ、キ、キスしたなッ。親父にもキスされたことないのにッ」

「いままで何人のパパ活女子とヤッても感じなかったトキメキを感じる……」

「訳の分からないことを言ってんじゃねえッ」

「頼む、カネならいくらでも出す。お前の処女をオレにくれ」

「アーッ!」


(……やだ、女の子の方がずっとキモチイイ。くせになりそう……)


 こうしてまた一人、パパ活女子が誕生したのだった。


  🎵 Frank Sinatra - Fly Me To The Moon 🎵


「いやぁ、とんでもない修羅場を見てしまいましたね」

「まあ、でも、あの女性も問題ですよ。『妻とはうまく行ってないんだ』なんてセリフを口にするような男は信用しちゃダメだって。子供だって誰の子だか分からないんだろうし、パパもとんだ災難でしたね」

「おやおや、サキちゃんは女性の味方をするものだと思っていましたが。けっこうドライなんですね」

「パパ活やってるんだったら、自分の身は自分で守らなきゃ」

「しかし、パパ活をやっているのに、本気で恋しちゃうなんてこと、あるんですか?」

「女はセックスしたら好きになっちゃうから。パパ活でパパに本気になっちゃう人ってけっこういますよ。お金をもらうのをやめて不倫関係になっちゃう人とか。もちろん、玉の輿でパパと結婚できる人もいます」

「はあ、なんだか想像していたのより、いろいろあるんですねぇ」

 あ、そんな話をサキちゃんとしていたら、うしろのテーブル席で三人の若い女性がパパ活談義に花を咲かせているようですよ。これは聞き逃がせませんね。

 ぜひ、聞き耳を。


   🎀   🎀   🎀


「……ていうかさー、やっぱ、年上の男性がいいんだよね。三十代より四十代の方が好きかな」

「えー、それ、おじさんが好きってこと? いや、おじさんの方がお金持ってるけどさー、それと好きかどうかって別じゃん?」

「『おじさん』っていう言い方がよくないんだよ。『おじさま』って言ってよ。ちなみにオジサンとオジサマは別の生き物だかんね」

「え、なになに? 先輩はパパ活はあくまでお金のためってことですか?」

「うーん、どっちかというとお金かな。大学で同い年の彼氏がいるわけだし。割り切りの仕事だよ。あんただってパパ活やってみようかなって思ってるのはお金がほしいからでしょ?」

「まあ、それはあるんですけど、でも、嫌な人と我慢してセックスするのは違うかなって思って。どうせなら、魅力的な男性に優しくしてもらいたいし」

「年上はいいよ~。優しいし、包容力があるし、人生経験豊富だし、余裕があるし、お金も持ってるし」

「なんだよ、オメーもカネじゃねーかよ」

「バカ、パパ活なんだからお金はたくさんもらえる方がいいに決まってるだろ。でも、お金だけじゃなくて、人間的な魅力のある人は年上が多いんだよ。やっぱ男は仕事してるときがカッコいいからさ、第一線でバリバリ活躍してるのって、必然的に年上になっちゃうじゃん」

「なるほど。でも、年上の――、三十代はそうでもないかもですけど、四十代ってなると結婚してる可能性が高いんじゃないんですか? 下手すると不倫ってことに……」

「結婚! よく聞いてくれた。そうなんだよ、結婚してる男はそれだけで魅力がアップするんだよ。不倫サイコー。不倫は燃えるよ」

「そこは同意だわ。四十代で一度も結婚したことないとか、ワケありに決まってるし、とんでもない事故物件の可能性もあるから。不倫が怖くてパパ活はできないよ。でも、なんで既婚男性は魅力的に見えるんかな?」

「そりゃ、奥さんが育ててくれてるからよ。あたしらは奥さんのおかげで素敵な男性と楽しいことができるんだよ。感謝」

「うわぁ、それちょっとヒドくないですか? 人としてどうかと思いますけど」

「ひえ~、かわいい後輩に軽蔑されたぁ」

「甘いな。女に生まれたなら、一度は不倫の恋も経験しておくべきだぞ。あんた、不倫がなぜいけないことなのか分かる?」

「文字通り、倫理に反するからですよね」

「他人の決めたルールに無批判に従っているだけじゃ、これからの時代を生き抜いていけないぞ。不倫がいけないのは、単にリソースの無駄使いだからだよ。女が人生を勝ち上がるためには遅くとも二十八歳までには結婚相手を見つけておかなきゃならないからね。結婚対象になりえない既婚の男にかまけてるヒマなんてない。不倫なんかにうつつを抜かしてたら売れ残りのおばさんになるのが関の山さ」

「さっき言ってたことと矛盾するような……」

「不倫するならうまくやれ、ってことよ。不倫に溺れて婚期を逃すバカ女になりたくなけりゃね。そのためにも、若いうちに不倫を経験しといた方がいいんだよ」

「な、なんか、よくわからないですけど、パパ活も大変そうですね。先輩たちはどこでパパを見つけてるんですか? やっぱりマッチングサイトとか?」

「デートクラブね」

「デートクラブだな」

「出会い系のマッチングアプリとかダメだよね。あと、ツイッターとかも」

「ああ、ツイッターとかSNSはヤリモクばっかでダメだな。男もレベルの低いゴミクズばかりだし。お金を払わないヤツとか、逆にお金を取られたって話も聞くしね」

「パパ活アプリならともかく、ネットはいい男に会える確率低すぎ。いまはネットの時代だって言うけどさ、そうだからこそ人と人との繋がりが大事だと思うんだよね。パパ同士のネットワークで紹介してもらえたりとか。優秀な男性は優秀な男性同士で繋がってるからね」

「それな。けっきょく、セックスって究極のコミュニケーションなわけじゃん。オンラインでセックスなんてできないわけだし。対面の大切さをつくづく感じるよね」

「そう言われると、パパ活が素晴らしいことのように思えてきますね。わたしも頑張って素敵なパパに巡り会いたいです」

「でさー、さんざん年上が好きって言っておいてなんだけどさ、若い子もいいと思わない? 高校生の童貞クンとか」

「うわ、節操ない。お前、将来ママ活やりそうだな」

「えー? おじさまもいいけど、若い子もいいって。初々しくて、体力もあって、カワイイよ。年上のお姉さまに憧れてる子も多いし、いろいろ教えてあげるのが楽しい」

「お前、未成年とセックスするのは犯罪だぞ。とか言って、わたしもこのあいだパパの息子二人を筆おろししてあげたけど。高校生と中学生」

「なに!? 詳しく聞かせろ。そして、その二人をあたしに紹介するんだ。なんなら4Pしよう」

「あ、それ、わたしも混ざりたいですぅ。年下、興味ありますぅ」

「ちょ……、お前ら、食いつきよすぎだろ。紹介してやるから、ちょっと落ち着け」


  🎵 Louis Armstrong - What a Wonderful World 🎵


「いやー、それにしても、パパ活をしている女性がこんなにいるとは驚きですよ。サキちゃんも高校生で援助交際をしているというし、もう、若い女性はみんなしているんじゃないかと、疑心暗鬼になってしまいますね」

「フフフ、まさか女性が全員パパ活してるわけないじゃないですか。あくまでごく一部ですよ」

「ふーむ、それならいいんですがね。たとえば、ほら、いま店に入ってきた女性。三十代半ばくらいでしょうかねえ。スーツを上品に着こなして、美人で凛とした、いかにも仕事のできるキャリアウーマンという感じですが、もしかしてこの人も――、なんて、思ってしまいますよ」

「ああ、あの人は……」

 ん? あの女性、なにやら真っすぐ私たちの方に歩いてきますが……。もしや、失礼な目で見ていたのを気づかれたんじゃ……。

「こんにちは、サキちゃん。待たせちゃったかしら?」

「いいえ、あたしもいま来たところですよ」

 なんだ、サキちゃんのお知り合いでしたか。

「こちらの紳士は?」

「ここの常連さん。ちょっとお喋りしてただけ。もう行きますか? それとも一杯やってきます?」

「そうね。二人っきりになれるよう、別のお店にいきましょう。あ、そうそう。これ、きょうのお手当」

「ありがとうございます。『朝までたっぷりお泊りコース』ですね。それじゃ、お姉さん、いまからしばらくのあいだ、あたしの恋人になってください」

「フフフ、可愛いわね。それに女子高生の肌って、とってもみずみずしい。今夜は楽しみましょう」

「はい、よろしくお願いします。じゃあ、おじさん、あたしもう行きますね。おじさんも今度会ったときには遊んでくださいね。え? ああ、実はあたし、バイなんですよ。バイバイ、またね」

「ああ、またね、サキちゃん」

 サキちゃんは女性と腕を組んで行ってしまいましたね。

 いやー、なんとも、これはどう受け止めたらいいんでしょうかねえ。

 バイだからバイバイ、ですか。つまり、あの女性は同性愛者で、お金を払って女子高生のサキちゃんとデートするということなんですよね?

 パパ活の相手は当然男性だと思っていましたが、女性もいるとは驚きです。あ、もしかしてこれがママ活というやつですか?

 なんだか、あまりにいろいろな話を聞いてしまって……、いやはや、頭の整理が追いつきませんね。これも若い女性のたくましさということなんでしょうかねえ。

 さて、私もそろそろ行くとしましょうか。

「じゃあ、アンジェロ。ごちそうさま」

「いってらっしゃいませ」


🎵 Li'l Darlin ………………

🎵……………………

🎵…………


おわり


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