プリンターが古いのか印刷がかすれていたけれど、そこに写っているのは間違いなくあたしだった。いつ撮影されたものなのかさっぱりわからない。援助交際で写メを撮りたがる人はいるけど、いつもお断りしてる。
口の中がカラカラに乾いていた。あたしはぷるぷる震える手で紙をめくった。
二枚目の紙に印刷されているのもあたしの恥態だった。ベッドにM字開脚の姿勢で座り、アソコをいじられている。白のハイソックスだけしか身に着けていない。一枚目の写真とはシーツの模様が違う。別のラブホテルだ。
二枚目にもサインペンで文章が書かれていた。
『これが美星さんの本性です 鳴海君も哀れですね もう退学決定ですから』
めまいがした。
こんな写真を撮られた覚えはない。こめかみが脈打つのを感じながら、混乱する頭で必死に思い出そうとした。中学のときだろうか。あの頃はいまほど気をつけてはいなかった。でも、体つきはいまのあたしに近い。
三枚目は、撮影者とおぼしき男と正常位でつながっている写真だった。チェックのミニスカートと黒のニーソ。ブラウスをはだけられ、ブラをずらされた状態だ。ぼんやりとしたカメラ目線。これもあたしに間違いない。
『学校に知られたくなければ九時までにこのアドレスにメールしてください』
連絡先としてフリーメールのアドレスが書かれていた。
わけがわからない。いつこんな写真を撮られたんだろう。最近のものであるはずはない。いまはこんなヘマはしない。まだ用心するすべを知らなかった頃、媚薬を使われて意識が朦朧となったことが何度かある。そのときかもしれない。きっと知らないうちに撮られてたんだ。
記憶にはないけど、これはあたしが援助交際をしているという決定的証拠だ。
援交相手があたしに無断で撮った写真をネットにアップしたとしか考えられない。
それを晴嵐の生徒か先生の誰かが見つけて、あたしを脅迫しようとしてるんだ。
どうしよう?
どうしたらいい?
このままじゃ、あたしはおしまいだ。
このアドレスにメールしたらどうなるんだろう。
逆に、メールしなかったらどうなるんだろう。
頭がしびれて考えがまとまらない。
美少女ランキングのときのように誰かに相談するわけにはいかない。特に恵梨香先輩には知られちゃいけない。拓ちゃんにも相談できない。スクールカウンセラーの先生はどうだろう。いや、ダメだ。援助交際のことを誰かに打ち明けることはできない。
あたしひとりで何とかしなくちゃいけないんだ。
恵梨香先輩だったらこんなときどうする? 闘うに決まってるよね。
あたしに何ができる? あたしに闘える? どうやって? 誰と?
この脅迫状を無視すれば、学校に証拠写真を送りつけられるだろう。そうなれば退学は間違いない。
いや、それよりも拓ちゃんと恵梨香先輩に知られてしまう。それだけは避けたい。
高校生活は楽しいと思ってた。たぶん、あたしの人生の中で楽しいと思える最後の日々だと思う。中学のときのあたしは、犯され、奪われ、踏みにじられるだけの無力な子供だった。いまは強くなれた。そう思ってたけど――。
無力だ。
ここで終わっちゃうのかな。
楽しいことだってあるんだって、やっと思えるようになったのに。
便器の上でうずくまって泣くことしかできない。
メールするしかないのか……。
結局、脅迫に屈して体を差し出すしかないのか。
メールしたらあたしは性奴隷にされるだろう。お金を要求されるかもしれない。いや、たぶん両方だ。脅迫者が飽きるまで中出しされたあと、売春をさせられる。妊娠したって許してもらえるわけがない。ひょっとしたらSMとか、もっとひどいことをされる可能性だってある。秘密をバラされたくなかったら言うとおりにしろと脅されて、好き放題に嬲りものにされるんだ。ボロボロに壊される。中学のときの二の舞だ。そんな屈辱を受けるなんてガマンできない。
ホームルーム開始のチャイムが鳴った。そのあと九時から文化祭の開会式だ。
脅迫文には、九時までにメールしろ、と書かれている。
いつまでもグズグズしていられない。
あたしはあふれてくる涙を何度もぬぐって、ケータイを取り出した。こちらもフリーのウェブメールのアドレスを用意した。ケータイのメールに転送されるように設定する。いつもの援交で正体を知られないための無意識の行動だ。けど、今回はそんなことしても無意味だと気づいて自嘲した。
『こんなことして なにが目的なんですか?』
メールを送信してからしばらくのあいだ立ち上がることができなかった。
[援交ダイアリー]
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