ぴゅあぴゅあせっくす (09) Fin

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「うわーっ、姉さん、勝手にドア開けるなよ!」

「い、一花さん!」

恭介の姉の一花(いちか)だ。

詩織は一花が夜まで戻らないと踏んでいたのだが、その予想ははずれた。玄関に詩織の靴があるから、誰か女の子が来ているのは一花にもわかったはずだ。それで、いったいこんどの彼女はどんな子なのかと、様子を見に来たのだろう。デリカシーのない態度でいきなりドアを開けたのは、もちろんわざとに違いない。ごまかす隙を与えないための不意打ちだ。

果たして一花はベッドの上で折り重なっている詩織と恭介の姿を目の当りにすることになった。

時間が止まったかと思われた。三人とも動くことができず、呆然と見つめ合った。

「あ、あなた……、し、詩織ちゃん……?」

「ご、ご無沙汰してます、一花さん」

「きょ、恭介、あんた、詩織ちゃんと……そーゆー関係になってたの……?」

「そんなの姉さんには関係ないだろ!」

恭介がそう言うと、一花はなにやら妙にうれしそうに顔を歪ませた。

「関係ないわけないじゃないの! お姉ちゃんね、詩織ちゃんみたいな妹が欲しかったのよ。詩織ちゃんが遊びに来てくれなくなって寂しかったんだからね」

詩織は一花の言葉の含みに気づいて顔を赤くした。

もちろん、そうなればうれしいのだろうけれど、いままで現実のこととして考えたことなどなかった。

結婚だなんて!

恭介はどう思ってるのだろう。そっと恋人の顔を見やったけど、恭介は姉に文句を言うばかりだった。まあ、高校生の男の子がたとえ仮定の話としても、結婚のことなんてまともに考えられるわけがないんだけど。

「とにかく、お姉ちゃんは応援してるからね」

そう言って、部屋を出ていった。そして廊下から一花の声が聞こえてきた。

「お母さーん、大変よぉ」

(あうっ、おばさんも帰ってきてたのか)

詩織は予想外の展開に、もうどうしていいかわからなかった。

救いを求めるように恭介を見た。

恭介はもう落ち着いた様子でおおきく息を吐き出すと、

「ねえ、しーちゃん。きみをぼくの家族に紹介したいんだけど、いいかな?」

と、芝居がかった口調で言いながら、おでこをくっつけてきた。

「俺のいちばん大切な人として、ね」

「いちばん大切な人……、それって……」

恭介が黙って微笑むので、詩織は言葉を呑み込んだ。

「あらためておばさんたちにご挨拶なんて、なんだか緊張するよ」

詩織は照れ笑いした。

「大好き、恭ちゃん。服を着る前にもう一度、ぎゅってして」

「ああ、大好きだ、しーちゃん」

恭介に抱きしめられ、キスされた。

家族公認の恋人。

――あたし、おおきくなったら恭ちゃんのお嫁さんになる!

幼いころにそんなセリフを口にしたことがあった。でも……。

(お嫁さん――)

突然それが現実的な重みを持って感じられはじめた。

どうなるかはまだわからない。

欲しかったものはすべて手に入った。

何もかもうまくいった。

いまはその喜びにひたっていたい。

優しい愛に包まれていたい。

好き。

好き。

大好き。

おわり

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