ぴゅあぴゅあせっくす (02)

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あわてて振り返ると、恭介がお盆にティーポットとお菓子を載せて部屋に入ってくるところだった。

エロ本を見ているところを見られた!

どう取り繕ったらいいかと両手をばたばたさせた。そんな詩織を見て、恭介が笑った。恭介はお盆をガラステーブルの上に置くと、詩織が落とした雑誌を拾った。真顔になって、雑誌の表紙と詩織の顔を交互に見比べた。

「しーちゃんのエッチ」

「ちがーう! そういうんじゃないってば。てゆうか、女の子が部屋に来るときくらい、エロ本は隠しておきなさいよ!」

「ごめんごめん、いつもはそうするんだけどね」

恭介が笑いながら雑誌を棚に戻し、お茶を入れ始めると、詩織は焦燥感にかられた。

(いつもはそうする……か)

過去にこの部屋を訪れたであろう女の子に対する嫉妬。

やっぱり自分は女の子として見られていないのではないかという不安。

詩織は頭を振って、胸の奥をチクチクと突っつくネガティブな感情を振り払った。

わざとベッドに腰を下ろし、黒ニーハイをはいた脚を組んでみせた。丈の短いワンピースの裾から太ももをのぞかせる。

さっき見たエロ本のポーズを意識した。

あたしだって女の子だ。

好きな男の子をユーワクするためには悩殺ポーズだってしちゃうんだゾ。

そんな詩織の気持ちを察したのか、恭介は苦笑しながら頭をかいた。余裕のある態度だ。

男の子と付き合ったことのない自分と、複数の女性とセックスしたことのある恭介とじゃ、経験値におおきな差があるのはしかたない、と思ったものの、詩織はなんとなく自分が子供扱いされているような気がしてムッとした。

恭介が詩織の横に座った。

詩織はどぎまぎしてるのをごまかそうと、

「ほかの女の子が来るときにはエロ本は隠すんだ。それなのに、あたしには見られても平気ってこと?」

と責めるような口調で言った。

「だって、俺、おねしょして泣いてるところをしーちゃんに見られたことだってあるんだぜ。いまさらエロ本くらい、どーってことないよ」

恭介が笑った。

どう反応していいかわからず、詩織は口をぽかんと開けたまま固まった。そのまま恭介の屈託のない笑顔を見つめていたが、だんだん腹が立ってきた。太ももを見せてポーズを取っている自分がとんでもないバカ女に思えてきた。詩織は脚を組むのをやめて、肩を落としてうつむいた。

「あたしって色気がないのかなぁ」

恭介が考え込むように黙っているので、詩織はその場から逃げ出したくなった。必死に踏み止まったのは、何とかして新しいステージに進みたかったからだ。

「しーちゃんは特別だから」

「え?」

「しーちゃんといると安心できるんだ」

微妙な言い方だな、と詩織は思った。安心できるというのは、ドキドキするのとは正反対だ。

本当に恋人になれているのか、という不安をかきたてられた。

いや。それどころか、よく考えてみれば、まだ告白の返事をちゃんと聞かせてもらってない。先輩と破局した恭介が、気のおけない幼なじみに癒しを求めただけでないと、どうして言える?

「あたしたちってさ、いまは恋人だよね?」

焦る気持ちを隠しきれず、詩織は恭介を見つめた。

息がかかるほど近くに恭介の顔があった。

心臓の鼓動が急にドキドキはげしくなった。

目が潤むのを感じた。

鼻がツンとした。

顔をやや上向きにして、ゆっくりと目を閉じた。

そのままじっと待った。

このまま何も起きなかったらどうしよう、と不安で苦しくなる。

恭介の顔が近づいてくる気配を感じた。

詩織は緊張のあまりちいさく震えていた。

唇にやわらかいものがかすかに触れて、すぐに離れた。

ファーストキス。

ほんの一瞬、軽く触れただけ。

思ってたのよりあっさりしていて拍子抜けした。

目を開けると、恭介がいままで見せたことのない真剣な表情で見つめていた。

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