テレビ画面の中でベッドシーンが始まった。恋人同士のようなセックスだ。女優さんは男優さんに大切に扱われていた。すごくきれいで、楽しそうだ。わたしの撮られたビデオとはぜんぜん違う。
「きみはとても真面目な人だと思う。それに芯の強い女性だ。どんなつらい過去も跳ね返してやろうとがんばっている。そのドレスはすごく似合ってるけど、きみにとっては冒険だったんだと思う。着慣れていない感じがするからね。きみは新しい自分を見つけようとチャレンジしているんだ。必死でもがいていると言ってもいい。力にならせてくれないかな。きみはひとりじゃない」
アダルトビデオのことはいろいろ聞かせてもらった。でも、わたしは自分のことは何も話していない。なのに、どうして佐藤さんはこんなにわたしのことをわかってくれるんだろう。
このまま話を聞いていたら、その気になってしまいそうで怖い。すこし頭を冷やしたほうがいい。
「あの……、シャワー、浴びていいですか?」
佐藤さんは黙ってうなずいた。
「うしろを見ていてください。ぜったい覗かないでくださいよ」
わたしは着ているものを脱いでベッドの上に放り出した。佐藤さんは壁のほうを向いている。
バスルームに入って熱いシャワーを浴びる。ラブホテルの部屋で知らない男性とふたりきり。わたしは全裸だ。佐藤さんが入ってくるかもと不安になった。それとも、この気持ちは期待なのかもしれない。
信じてしまいそうになる。信じたいという気持ちになる。
ぜんぶわたしを陥れるための罠のはずなのに。
タオルを体に巻いてバスルームを出ると、佐藤さんはこちらに背中を向けたままだった。
わたしは佐藤さんのすぐ横にすわった。ズボンの股間が膨らんでいるのが見えた。わたしに欲情しているのだ。でも、確かに約束どおり指一本触れようとはしていない。ひょっとしたら誠実な人なのかも。
わたしのことをぜんぶ話したい。いじめられていたこと。好きだった男の子のこと。子供のころからオナニーしていること。友達がいないこと。だまされてビデオを撮られたこと。誰にも相談できなかったことを、佐藤さんに聞いてほしい。佐藤さんならわかってくれるような気がする。
だけど、うまく言葉にできない。
わたしは体に巻いていたタオルを取った。火照った裸体があらわになった。
自分でもどうしてこんなことをしてしまうのかわからなかった。
抱かれたいと言っているに等しい。
佐藤さんもその気になったらしい。黙ってわたしの肩を抱いた。そのまま仰向けにベッドに横たえられた。佐藤さんがわたしの体を検分するように見た。いやらしい視線じゃない。
「思ったとおり。すごくきれいだ」
佐藤さんの手がわたしの乳房に触れた。
「佐藤さんも、シャワー浴びてください」
佐藤さんはにっこり微笑んでわたしから離れると、バスルームに入っていった。
ベッドの上に横たわったままシャワーの音を聞く。あの音が止んだら、佐藤さんに抱かれることになるのだ。
[目立たない女]
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