「ひ、ひぁぁ、うぅぅ」
思わず大声で悲鳴をあげそうになった春菜の口を、男の手がふさいだ。そして、頬に冷たいものが押し当てられた。目だけを動かしてそれを見る。鈍い銀色に光を反射するハサミだった。背中を冷たいものが滴った。必死に声を飲み込んだ。
「大声出すなって言ったろ? 手を離しても声出すなよ。いいな?」
春菜は恐ろしくて、しかたなく首を縦に振った。その間も男の両手は春菜の胸を揉んでいた。じゃあ、口をふさいだのとハサミを突きつけたのは、また別の痴漢なのか。春菜は混乱して、考えることができなかった。
男がゆっくりと春菜の口から手を離す。でも、ハサミは顔の前でちらちらと見せびらかしていた。
列車の中は乗客同士の肩が触れ合うほどに混んでいたが、身動きできないほどぎゅうぎゅう詰めというわけでもなかった。三人の男に取り囲まれた女子高生がもがいている様子は、男たちの身体の隙間から見えるはずだ。こんな状況なのだから、もし他の乗客が気づいたなら助けてくれるはずではないか。春菜はそう思ったが、現実は違ったのだ。痴漢されてもじっと耐えている子を見て、自分もおこぼれにあずかろうというのだろう。助けてくれるどころか、痴漢行為に加わるなんて。
ハサミを突きつけられなかったら、耐え切れずに大声を出していたかもしれない。でも、助けを呼んだとしても、誰も助けてはくれないのだ。たぶん、春菜の悲鳴は別の痴漢を呼び寄せるだけなのだ。春菜はそう思って、絶望感に打ちひしがれた。
春菜のブラウスのボタンは一番上と一番下を残して、すべてはずされてしまった。すると背後にいた男の手がブラウスの中に滑り込んできた。下に着ていたキャミソールをたくしあげられ、ブラジャーに覆われた小さな胸が露わになった。肌に直接触れられて、春菜は全身を粟立たせた。
悲鳴をこらえた。
(これ以上、他の人に気づかれたくない。気づかれたら、きっとその人も痴漢に加わってくるのだろう。気づかれちゃダメだ。駅に着くまでの、ほんの十分くらいのことだ。それまで我慢すれば……)
今度は背中のホックをはずされた。痴漢がブレザーごしに、春菜のブラジャーのホックを器用にはずしたのだ。ふっ、と胸の締めつけが消えた。乳房を覆っていたブラジャーのカップが浮き上がった。
同時に、右にいた男がパンツのゴムに手をかけると、ゆっくりと引きずりおろし始めた。それに気づいたのか、左にいた男がやはりパンツのゴムに手をかけた。二人の手は共同で行うセレモニーのように、ゆっくりとそろって動いた。ゆっくりとした動きが、春菜の恐怖を倍増させた。
(やめてーっ、お願いだから、それ以上、しないで!)
激しい動悸がして、春菜は息苦しくなった、歯がカチカチと音をたてる。額には冷や汗が噴き出していた。
背後の男が、はずれたブラジャーの下に手を入れてきた。ブラジャーが上にずらされ、まだふくらみかけの小さな乳房が露出した。Aカップの春菜の胸は、男の手の中にすっぽりと納まってしまった。
「あうぅぅ」
ゆっくりとずり下げられていくパンツが、春菜の太ももに達した。脚を開かされているので、それ以上下げることができないのだ。別の手が春菜のミニスカートの裾の前の部分を持ち上げ、それをウエストに挟み込んだ。春菜は股間に風があたるのを感じた。大切な部分を露出させられたのを実感させられた。
満員電車の中で半裸に剥かれ、複数の男たちに身体を弄りまわされている。
現実に起きていることとは信じられなかった。
どうして自分なのだろう? 自分はそれほど美人でもないし、身体だって幼児体型で、胸も小さいのだ。派手なところだってないし、まじめでおとなしい性格で、学校でも目立たないほうだ。それでも男たちに付け狙われ、襲われ、辱められなくてはならないのだろうか。
春菜の股間、まだ自分でも見たことのない部分に、男たちの手が無遠慮に触れた。
「あううっ」
いくつもの手が春菜の大切なところを蹂躙し始めた。
あるものは薄い草むらの感触を確かめるように撫でまわし、あるものは割れ目にそって花びらを撫でまわし、あるものはお尻のほうから割れ目を撫でまわした。それとは別に、お尻を掴む二つの手があって、さらに別の手が春菜の太ももを撫でていた。
胸を揉みまわしていた手が離れた。すると、ハサミが春菜の顔の前に突きつけられた。そのハサミの刃が、キャミソールの胸元を挟んだ。
ジョキン。
「や、やだ、やめて……」
春菜は慄いた。男の手に握られたハサミが、キャミソールを上からじょきじょきと切り裂いていく。春菜は肌を傷つけられないように、震えをこらえるしかなかった。耐え難い屈辱だった。キャミソールを切り裂いたハサミが、今度はキャミソールとブラジャーの肩紐を切った。二つの布切れが取り去られた。胸からお腹にかけて、春菜の柔肌が露わになった。
春菜は自分が無力だと思い知らされた。こんな理不尽な目に遭っているのに、どうすることもできない。くやしい。どうしてこんな目に遭わなければならないのだ? どうしてこんな少女の敵が野放しになっているのだ? 春菜は腹立たしさで胃の中が熱くなるのを感じた。恐怖と絶望に崩れ落ちそうな春菜の心は、湧きあがってくる怒りで何とか支えられていた。
もう、何人の痴漢に襲われているのかもわからない。
胸を揉まれるうちに、乳房の芯が硬くなってくるのを感じた。男の指が乳首に触れ、指先で転がすように刺激すると、小さな突起が勃起を始めた。春菜は胸を揉んでいる手と、乳首を弄っている手が別のものだと気づいた。あるいは、左右の胸をそれぞれ二人の痴漢が両手で嬲っているのかもしれない。とにかく、乳房と乳首を別々に、しかし連携して責められているのだ。
しだいに身体の奥が熱くなってくる。恐怖とは異なるものが、春菜の中に生まれ始めていた。春菜はオナニーをしたことがなかった。無論、セックスの経験などあるはずもない。性については学校で習った知識しかなかった。だから、自分の中に湧き起こってきつつある、この不思議な感覚は、春菜にとって生まれて初めて感じるものだった。
不思議な感覚は股間にも生じていた。何か、とろっとしたものが溢れ出てくるような感覚だった。だが、すぐにそれが感じているだけでなく、実際に液体が流れ出ているのだとわかった。股間を撫でまわす痴漢の手が、ねちゃねちゃという感触を帯び、ぬめぬめとした液を春菜の蜜壷からすくいとっては、太ももに塗りつけていたからだ。
濡れる、というのはこういうことだったんだ。
そんな感慨を覚えた。自分はいま、いやおうなしに性の秘密を凝視させられているのだと思った。この先どうなるのか。かすかにそう思った気持ちが、これから起きることに対する期待なのだと気づいて、春菜は愕然とした。
[淫獄列車]
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