おしっこガールズ (06)
脚をきれいに見せたいけどおむつも着けたいという若い女性にとっては、ガーターストッキングは最適解だ。
(なるほど、謎は解けた!)
自分の発見に満足したエリは仕事に戻った。
そんなこんなで三日ほどでエリはプレゼン資料をまとめあげ、金曜日にはテツさんのレビューも受けて「じゃあ、これでいこう」と言ってもらえた。
(あとはプレゼンかぁ……)
不安を抱えたまま過ごす週末は憂鬱だった。発表内容はすべて頭に入っているし、土曜日は部屋で繰り返し練習もした。だけど、このあいだのチーム内のプレゼンだって同じように完璧を期して臨んだのだった。
「今度だってうまくできるわけがない。やっぱりおむつに頼るしかないのかなぁ……」
エリはクローゼットにしまいこんだおむつを取り出して悩んだ。
おむつに触っていると、居酒屋で穿いたときのなんとも言えない安心感が蘇ってきた。
(ちょっと穿いてみよっかな)
胸の高鳴りを感じながら下着を脱ぐと、恐る恐るおむつに足を通した。ふんわりと股間を包み込むおむつの感触は性的な快感に似ていた。
「ふにゅぅ……」
部屋の中でひとり、にへら顔でその感覚を楽しんでいたエリは、突然ある衝動を覚えた。
(プレゼンとか関係なしに、楽しむためにおむつを穿いてもいいんじゃないの?)
中学生の頃に初めてオナニーを覚えたときの気持ちを思い出した。恥ずかしさも感じたけれど、あらがうのも難しい気持ち。そして、
「おむつを穿いてガーターストッキングを買いに行こう!」
冒険に出る勇者のような決意を固めると、エリは外着に着替えた。おむつを着けていることがわからないように、ゆったり目のワンピースを選んだ。
駅に着くまでは、おむつを着けていることがほかの人にバレるんじゃないかとビクビクしていたけれど、誰もそんな素振りは見せない。たまにすれ違った男性が性的な視線を向けてくることはあった。でも、エリがおむつを着けているなんて夢にも思っていないようだった。気にしているのは自分だけだ。
エリは心配するのをやめた。むしろ気づかれてみたいとさえ思った。実際に気づかれたら困るのだけど、気づかれるかもしれないというスリルにはときめきを感じる。
電車はそれなりに混んでいて空いている座席はほとんどなかった。エリはドア近くの手すりにつかまって立った。
(ん?)
エリのそばで同じように手すりにつかまっている少女がいた。高校生か、大学生かもしれない。ロリータっぽいフリルのついたピンクのジャンパースカートは、エリにはちょっと真似のできないファッションだ。
その子は全身をこわばらせて、両足が小刻みにふるえていた。気分が悪いのかと思ったけれど、ほっぺたを赤くしてうつむいている様子は、数日前の居酒屋でのナコ先輩と自分の姿に重なった。
しばらくすると少女は小さな体をプルプルさせて、緊張が一気に解けたような表情になった。放心したまま、とろんとした目で列車の揺れに身を任せている。
(この子、いまおしっこ漏らしたんだ……)
オルガスムスの波が引いていったからなのか、少女はエリの視線に気づいた。さっきまでとは違った意味で緊張した表情になり、顔を真っ赤にした。
(あなたもおむつをしてるんだね。わたしもおむつを着けてるよ)
という表情を作って、安心させるためにニッコリしてみせたが、微笑だけではそこまで伝わらなかったようだ。そこで声を出さずに口の形だけで、
(お、)(む、)(つ、)
と言いながら、自分のスカートの上でおむつの形をつくってみた。そうしてもう一度ニコッと笑いながら、少女と自分の股間を交互に指差した。
少女は耳まで赤くしてエリの下半身を見た。たぶん意図は伝わったのだろうけれど、それ以上に変な人と思われたらしく、ちょうど停車して開いたドアから逃げるように降りていってしまった。
(こんなにすぐに放尿プレイをしている人に出会うなんて、おむつを楽しんでる人は思った以上にたくさんいるみたいだな)
そう思いながらエリも列車を降りて、街に出た。
繁華街を歩くうち、エリは前からくるひとりの女性に目を留めた。行き交う通行人たちの中でその人に注意を惹かれたのは、自身に満ちたその歩き方のせいだった。白のブラウスにグレーのジャケット、ダークグレーのホットパンツに黒のニーハイ。エリよりすこし年上の二十代後半だろうか。長い髪をなびかせて颯爽と歩いている。何かクリエイティブ系の仕事をしているんだろうなと思わせる雰囲気だった。
かっこいい人だな、と思ったエリは女性が近づいてくると、ホットパンツと見えたものが実際はおむつだと気づいて目を見張った。しかもテープタイプだ。ランジェリーをアウターとして着こなす人はいるけど、おむつでもこんなコーデができるなんて。
[おしっこガールズ]
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