久美子先生とは放課後に会う約束をして別れた。そのときに藤堂先生のことをいろいろ訊いてみよう。
ホームルームでは藤堂先生と一度も目を合わせなかった。午前中に現代文の授業がないのは幸いだった。あたしは現代文がかなり得意なのだけれど、こんな調子じゃ嫌いな科目になりそうだ。
昼休みはパンを買って屋上に行った。誰もいない。暖かくなってきたから、そろそろ屋上でランチにしようという生徒も出てくる。援交メールを書くときは気をつけないといけないな。
というわけで、食事のあとで援交用のスマホを取り出した。きょうは大学院生の人と会うことになっている。まだ童貞だけど感じのいい人だ。初めての女性は沙希ちゃんがいいと言ってくれてた。これまで何度かデートして下着を売ってたんだけど、春休みにバイトしてまとまったお金ができたとかで、晴れてあたしを買えることになったそうだ。
放課後に久美子先生のカウンセリングがあるけど、そっちは長くはかからないだろう。電車での移動時間を考えて待ち合わせの場所と時間をメールで伝えた。
童貞クンの筆おろしをしてあげるのはけっこう楽しい。オジサマの濃厚なセックスとは別の感動がある。いまの嫌な気分を吹き飛ばすのにはもってこいだ。
そろそろ教室に戻ろうと屋上の扉に手をかけると、中から話し声が聞こえた。ひとつは藤堂先生の声だとすぐにわかった。それであたしは音を立てずに塔屋の陰に隠れた。
扉が開いて、藤堂先生と――、なんてこった、下田先生が現れた。
見つからないよう身を潜めて様子をうかがった。
「で? 職員室じゃ話せないような話って?」
下田先生が言った。おもしろがっているような、藤堂先生をバカにしているような声だ。
「美星のことですよ。今朝の美星に対する下田先生の態度はセクハラです。俺のクラスの生徒にああいうことはやめてくれませんか」
藤堂先生はいかにも教師らしい真面目な口調だった。
「いやいや、セクハラで嶋田先生に厳重注意されたのは藤堂先生の方じゃないですか。保健室でたっぷりお灸をすえられたんでしょ」
「それは関係ない。とにかく、美星に妙なちょっかいを出すのはやめてもらいましょう」
「ははーん、そういうことですか。藤堂先生も美星のことを狙っているんですね? まあ、あの子は可愛いですからねぇ。気持ちはわかりますけど、藤堂先生、今朝のアレはいけません。いきなり肩をつかんでキスを迫るなんて」
「そんなことはしていない!」
「ハッハッハッ、いいんですよ、ムキになって否定しなくても。ぼくもあいつは前からいいなと思ってたんです。清楚な雰囲気でおとなしそうな子なのに、幼さの中に妙に大人びた色気を見せるでしょ? 身体つきだってスレンダーだし大人の体になりかけで、ああいうのを青い果実と言うんでしょうね」
爽やかな声で気味の悪いことを言ってくれる。
「ねえ、藤堂先生、美星が中学のとき不登校児だったのは聞いてますよね。なんで不登校になったと思います?」
その言葉に心臓が止まりそうになった。いや、下田先生が知っているはずはない。
「入学してきた美星を見て、すぐにピンと来ましたよ。ああ、この子はもうヤラれちゃってるなってね。ぼくの勘ですけど、あの子はレイプ経験者ですよ」
藤堂先生は言葉が出ない様子だ。
「その顔……。あんまり驚かないですね。処女じゃないって気づいていたんですか」
「まさか、下田先生はもう美星とヤッたのか?」
「いや、なかなか親しくなるチャンスもなくてね。担任という有利な立場になれた藤堂先生がうらやましい。どうですか、ぼくと手を組みませんか?」
「手を組む?」
「ふたりで美星をレイプするんですよ。あいつは強引にヤられても泣き寝入りするタイプです。大人がふたりがかりで押さえつけてやりゃ、すぐおとなしくなりますって。藤堂先生だって美星を犯してみたいでしょ?」
「あんたみたいな下劣な奴と組むなんてゴメンだね。美星をヤるのは俺だ。担任としてあんたにはヤらせない」
「じゃあ、競争相手ってことですね。どちらが先に美星をヤるか、勝負といきましょう。いやあ、強力なライバル出現だ。ぼくもそろそろ本気にならないといけないな。話はもう終わりですか? じゃあ、ぼくはこれで失礼します」
そう言い残して下田先生は校舎内に戻り、しばらくして藤堂先生も戻っていった。
あたしは塔屋の陰から出ると、止めていた息を吐き出した。
膝がガクガクして震えが止まらない。
いまのやりとりはぜんぶスマホで録画した。この動画があればあのふたりを学校から追い出せるだろうか。いや、懲戒免職にするにはインパクトが足りないような気がする。
中学の教師も同じようにあたしをレイプする相談をしていた。男の先生なんてみんなこうだ。あのときは絶望に押しつぶされた。だけど、いまのあたしは強くなったはずだ。もう中学のときとは違う。こんどは戦える。きっと立ち向かえる。
[援交ダイアリー]
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