快感ストーム(09)

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 レオンとララのメーデル姉弟が全裸で入場する様子を亜里沙はぼんやりとながめた。この二人が国際大会に出てくるのは初めてだ。姉のララは十九歳、弟のレオンも十八歳で、どんなセックスをするのかあまりデータはない。日本チームもこのペアのことはそれほど警戒してはいなかった。

 予選一位のアメリカはベテランとはいえ年齢が高く、勝てない相手ではない。おそらくアメリカは熟練したテクニックを武器に手堅い体験で魅せてくる。暫定一位のノルウェーを上回るスコアを出すだろう。それをさらに超えるスコアを出せば金メダルだ。強敵と思われた中国が脱落したいま、日本のメダルは堅い。日本チームの誰もがそう思っているようだった。

 その雰囲気が亜里沙を苦しめた。

『さあ、オランダのメーデルの体験が始まります。豊川さん、この二人は実の姉と弟ということですが、姉弟であることがセックス体験にどのような影響があるのでしょうか?』

『兄と妹とか姉と弟という二親等の近親セックスは非常に体の相性がいいんですね。これは昔から経験者の間では言われていたことなんですが、レセプターレゾナンスの登場で科学的にも証明されているんです』

『それにしては、きょうだいペアというのはほとんどいないですよね』

『やはり近親相姦に対するタブーというのが、まだ根強く残っているんですね。それに、一般的に兄と妹、姉と弟というのは仲が悪いというか、あまり相思相愛の関係にはなりにくいものですからね。メーデル姉弟は幼い頃から両親の目を盗んでセックスしていたということを告白していますが、スポーツセックス熱の世界的な高まりのおかげで打ち明けることができたと、うれしそうに語っていました』

『それにこの二人は互いにほかのプレイヤーとはセックスをしないということで、経験人数も一人だけなのだそうです。家族愛、姉弟愛、そして恋人同士としての愛。オランダペアがどんなセックスを見せてくれるのか。いま前戯が始まりました。まずはキス。姉のララが弟のレオンをいざなってベッドに横たわります』

『あーっ、これはすごい。キスだけでララがイッています』

『すごいキスです。何なんでしょうか、これは。いままでのペアとは次元の異なるキスです。体が震えるような熱い姉弟ベーゼ!!』

『あ……、わたしもメロメロで……、涙が……』

 女性の審判が涙を流している様子がモニターに映ったのを見て、亜里沙も何かただごとではないことが起きていると感じた。

 このペアはただものではない。

 統和とのペア解消問題、メダルへのプレッシャー、自身のスランプ。それらをすべて忘れて、ララの恍惚とした表情に惹きつけられた。兄も弟もいない亜里沙にはできないセックス。どれほど気持ちいいセックスなのか。

 ふと、ソファの上のレシーバーが目に入った。先程まで紅林コーチが使っていたものだ。本戦の直前に他人の体験を共有するのはよくない。どのセックスプレイヤーも競技前にはオナニーもせずに性欲をためておくものだ。オランダペアの体験はあとで再生体験すればいい。そう思っていても、これはリアルタイムで体験しなければいけないような気がした。

 亜里沙はレシーバーを装着すると、ララの感覚共有にチャンネルを合わせた。

 その瞬間、快感の奔流が流れ込んできた。

 あたたかく、せつなくて、なつかしい。

 幼い頃、祖父母の実家ですごしたときのことがよみがえった。夕焼け空を見上げながら祖母の背中におんぶされ、稲穂が風に揺れる音を聞いた、まだセックスのことを何も知らなかった子供時代。心配することなど何もなかった安心できる日々。大人になったいまとなっては永遠に取り戻せない安らぎ。

 ふわふわする感覚とともに、じーんと体に染み渡っていくような甘い快感。

 これはいまララが感じていることだ。弟と遊んだ無垢な子供時代を思い出しているのだろうか。亜里沙はレシーバーを通じてララにシンクロしているのだ。それはほかのプレイヤーの体験よりもずっと解像度の高い愛情にあふれていた。

 レオンが正常位で挿入すると、ララの中の甘い感情が爆発した。弟への愛情と恋心が混じり合って性的快感が何倍にも膨れ上がる。

 誰かを愛するということの意味を思い知らされるような鮮烈なセックス体験。

 レオンは一度も体位を変えることなく、最後に一度だけ射精してララの中から出た。後戯のキスはしあわせに満ちていて、亜里沙は感動で震えていた。

 そして気づいた。統和が目指しているのはこういうセックスなのに違いない。

 セックスが好きで様々な男たち、あるいは女たちと体を重ね、セックスプレイヤーとしてハイスコアを目指しつづけて、ついにトッププレイヤーに上り詰めた。楽しくて充実した日々だった。けれど、それはちっぽけで子供っぽい自己満足でしかなかったのかもしれない。

 ララの体験の感覚が薄れていき、まわりの音が戻ってくると、目の前に統和がしゃがんで見上げていることに気がついた。

「いよいよ俺たちの出番だ。本戦の前に亜里沙に言っておきたいことが二つある」

 統和が亜里沙の手を取ってやさしい口調で言った。

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