ちょっと変わり者だけど、翔ちゃんは女子のあいだで密かに人気がある。でも、翔ちゃんが女の子と付き合ってたことはない。家が隣どうしで幼なじみのあたしは、こうして翔ちゃんのそばにいるけど、かえって恋愛関係からは遠い気がする。
あたしの気持ちはもう恋なんだけどな。
終末を一緒にすごしたい人は誰? というのが、女子のあいだでの最近の話題だ。ベテルギウスの衝撃波が地球を直撃したとき、人工ブラックホールが暴走したとき、巨大小惑星が落ちてきたとき、どこにも逃げ場がないなら、最期のときに誰と一緒にいたいか。あたしの答えは決まってる。
そんなことを思う人は世界中におおぜいいるらしく、どこの国でも結婚するカップルが急増しているそうだ。その影響はごく身近なところまで及んでいる。
あたしのお母さんと翔ちゃんのお父さんだ。
二人が恋愛関係にあるのを、あたしは知っている。もっとはっきり言っちゃうと、二人がこっそりセックスしているのを、あたしは知っている。
あたしのお父さんはずいぶん前に亡くなっているし、翔ちゃんのお母さんは別の男の人と逃げてしまったので、二人が恋をしていてもそれは問題ない。お母さんはまだ若くてきれいだし、おじさんはいいひとだ。二人の恋愛には別に反対していない。
ただね。
もし二人が結婚したら、翔ちゃんはあたしのお兄さんということになってしまうわけで。それはどうなのか、と。
幼なじみというだけでも距離が近すぎて異性として意識してもらえないのに。
このうえ兄と妹なんてことになったら……。
連れ子どうしは結婚できるのかな。いやいや両想いになってないのに、そんな心配してもしょうがないか。それより、ほんとの家族になったあとで翔ちゃんがほかの子と結婚なんかしたら、あたしの立場がなくなってしまう。
これは地球滅亡より大きな問題ですよ。
そのへん翔ちゃんはどう思ってんのかな?
そんなことを考えていると、翔ちゃんが鼻をくんくんさせて、
「なんだか美味しそうなにおいがするな」
と言った。
たぶん翔ちゃんはお母さんたちの関係に気づいてないんだろうな。気づいたところで、クラスメートが妹になることも、あんまり気にしなさそうだし。
「今夜はローストビーフだよ」
あたしはちょっとむっとして言った。
翔ちゃんは顔をあげると、きょとんとした表情であたしを見た。あたしが不機嫌になっていることに、遅まきながら気づいたようだ。
すこしはあたしのこともかまってほしいのだ。
翔ちゃんはパソコンをコタツの上に置くと、
「外に出て星を見てみようよ」
そう言って立ち上がると、厚手の半纏(はんてん)を取ってあたしに差し出した。
あたしは苦笑いした。翔ちゃんなりに気をつかったんだろうけどね。
星を見るのは嫌いじゃない。恋人どうしで星空を見上げ、ロマンチックな気分で愛をささやき合うのはステキだろうなと思う。でも、翔ちゃんはいつも星に夢中になって、隣の女の子のことなど忘れてしまうのだ。普通の男の子は星空をネタにして女の子を口説くものじゃないかしら。
あたしは半纏を着ると、翔ちゃんについて窓から外に出た。風はなかったけど、空気は冷たい。
物干し台にあがると、星空が広がっていた。明るい室内から出たばかりで目が慣れてないので、満天の星空というわけにはいかない。しばらくすれば、もっとたくさんの星が見えてくるはずだ。
[星くず迷路]
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