人妻セーラー服(05)

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 誰にも聞こえないように口の中でそっとつぶやいた。

 スーツの男性はくるみの右側を追い越そうとはせず、二段うしろに立った。

 前に立つくるみからは男性の顔は見えないけど、熱い視線をはっきりと感じた。

(うわぁ、やらしい人だなぁ。くうぅ、恥ずかしい……)

 そんなくるみの内心を知るよしもないこの男性は、見てはいけないと思いつつもくるみの太ももから目を離せずにいた。細くてキレイな脚の子だなぁ、もしかしてパンスト穿いてるのかなぁ、それにしても無防備な子だなぁ、などと思いながら、思いがけない幸運に顔がにやけてしまうのを必死に抑えていたのだった。

 くるみはバッグから何か取り出すような仕草をして、すこし体をかがめた。もちろんワザとだ。くるみがいま穿いているようなスカート丈だと、普通に歩いているだけでもパンチラは不可避。

 スーツの男性は息を呑んだ。一瞬だけパンツが見えた。あ、この子、やっぱりストッキングを穿いてるな、どおりで脚がキレイに見えるわけだ、というようなことを必死に考えて冷静なフリをした。理性を失わないようにするためだ。頭の中では激しい葛藤が渦巻いていた。そして、とうとう自分の意志とは裏腹に、スマホを取り出してしまった。震える手でカメラを起動し、くるみのスカートの下に差し入れた――。

「ちょっと、アンタっ」

 突然、背後でキツイ口調の声がした。ハッとしてくるみが振り返ると、スマホを手にしたスーツの男性の手首を、別のスーツ姿の中年男性がつかんでいた。

 ちょうどそこでエスカレーターはホームに着いた。列車はもう来ていて、まもなく発車するところだ。

「駅員さん! ちょっと来て! 盗撮犯!」

 中年男性が若い方の男性を取り押さえたまま駅員を呼んだ。そこで初めて、くるみは盗撮されていたことに気づいた。駅員がやってきて、ほかの乗客も何事かと注目しはじめた。

(うわぁ、大変なことになっちゃった)

 くるみは青ざめた。その様子は盗撮被害に遭ってショックを受けている女子高生に(まわりの男たちには)見えた。

 駅員がくるみに「大丈夫ですか」と尋ねた。くるみは震えながらうなずいた。

 駅員が若い男性のスマホをチェックして、くるみのスカートの中を撮影した動画を確認した。もうこの男性も言い逃れはできない。

(これ以上、関わらないほうがいいよね。逃げないと)

 だって主婦だもの。

 くるみは顔面蒼白で呆然としている若い男性を睨みつけると、「変態犯罪者ッ」と小声で罵声を浴びせた。盗撮に腹を立てていたわけではない。ただ、捕まってしまった以上、罵ってあげないとこの男性も立つ瀬がないだろうと思ったのだった。

 くるみはドアが閉まる寸前に列車に乗り込んだ。列車はすぐに動き出した。盗撮男がその後どうなるかはわからないけど、気にしてもしかたがない。被害者が姿を消したんだから、たぶん厳重注意くらいだろう。

 興奮しすぎて頭が痺れていた。視姦させることで男の劣情を翻弄してしまった。まだドキドキしていた。ミニスカ女子高生の多い街では盗撮魔も頻繁に出没する。くるみも高校時代には何度も盗撮されていたのかもしれない。当時なら気持ち悪いと思っただろうけど、いまはむしろ自慢したい気持ちだった。

 元来くるみは性欲が強い方ではなく、男好きな女でもない。男性経験も二人だけ。むしろ奥手で真面目なタイプだ。それにもかかわらず――、あるいは、だからこそ、かえって性的な目で見られる快感に酔ってしまい、ちょっとハイになっていた。

 列車は三十分ほどで目的の駅に着いた。三つの路線が交わるこの街は若者向けのショップが多く、駅前は学校帰りの高校生でにぎわっていた。

(この空気、このざわめき、なつかしいなぁ)

 駅前の大通りから一本入った商店街。くるみが昔よく友だちと放課後をすごした場所だ。雑貨屋や飲食店が軒を連ね、車両通行止めなので買い物客が道いっぱいに広がって歩いている。高校時代によく行ったソフトクリーム屋さんがまだ営業していたので、くるみは一つ買って、食べながら商店街を歩いた。なくなってしまったお店もあれば、新しくできたお店もあった。

 そんな街の様子をあちこち見ながら、ときどきお店の前で立ち止まっては、これといって当てもないので、ゆっくり歩いていく。

 くるみは気づいていなかったが、この様子は傍目にはナンパ待ちの女に見えた。遠目には美少女であり、近寄ればどこかセクシーなオーラをまとっている。くるみ本人はそんなつもりはサラサラないのだけど、それが隙を生んで、ますます男を誘惑する形だ。

 果たして、二人組の男子高校生がチャレンジしてきた。

「ねえ、彼女、ヒラコーの生徒だよね。ヒラコーは可愛い女子が多いって言われてるけど、こんな可愛い子がいるなんて思わなかったよ。もし暇だったら、俺たちとどこか遊びに行かない?」

 高偏差値の高校の生徒だ。垢抜けてるけど誠実そうで、いやな感じではない。

「えー? あたしですかぁ? うーん、どうしよっかなぁ」

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