朝早く目が覚めた。お父さん――じゃなくて、栄寿さんの腕の中に全裸で抱かれていた。栄寿さんはまだ寝息をたてている。
すぐ後ろには、もなかさんとあずきさんが全裸で折り重なるように寝ていた。
ふたつのダブルベッドをくっつけて作った大きなベッド。四人がゆったりできるサイズだ。このベッドの上で、きのうから四人でめいっぱいセックスを楽しんだ。
そっとベッドを抜けだすと、素っ裸のままルーフバルコニーに出た。
太陽の位置はまだ低い。空気は冷たかった。
きょう、わたしは十五歳になった。あとでママたちが誕生日パーティーにやってくる。この別荘で暮らした日々は終わり、ママたちと一緒に家に帰るんだ。ここでいろんな経験をした。栄寿さんとの初体験、よくわからないけど初恋らしきもの、女の人とのセックス、それから、もっといろんなこといっぱい。
ちょっとは大人になれたかな?
海を眺めていると、もなかさんが窓を開けてバルコニーに出てきた。もなかさんも全裸だ。みんなずっと裸で過ごしていたから、きっと慣れちゃったんだろう。
「おはようございます、もなかさん。起こしちゃいましたか?」
もなかさんが身をかがめてわたしを抱きしめ、キスしてくれた。
「おはようございます、お嬢さま。それから、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。家族以外の人から誕生日を祝ってもらうのは初めてよ。いつもパーティーは家で家族だけでしてるから」
もなかさんはあいまいな笑みをうかべた。わたしはもなかさんから離れると、
「中学のときまで、わたしはすごく引っ込み思案な性格だったんです。それに誕生日が三月二十七日で春休み中でしょ。学年の変わり目だから、友達を呼んでパーティーってこともなかったんですよ。もなかさんとあずきさんは、わたしの誕生日を祝ってくれる最初の友達だわ」
もなかさんは安心したように笑った。
「光栄ですわ。莉子お嬢さまも自分を変えたいと思ったのですね。でも、こうも思うのです。変わろうと思うのはただ自分をだましているだけなのではないか。本当のダメな自分を受け入れることから逃げて、うわべで別のキャラを演じているだけではないのか」
もなかさんがあんまりおかしなことをしみじみ言うものだから、思わず吹き出してしまった。
「いつだって、なりたい自分が本当の自分なんですよ」
「わたくしには自分がどんなふうになりたいのか、よくわかりませんわ。こんなわたくしでも本当の自分を見つけられるでしょうか」
「いま言ったのはママの受け売りです。わたしもママに同じことを訊いたんですよ。そうしたらママは大笑いしてこう言ったわ。『それが人生ってものよ』って」
「まあ……、ふふふ」
「それからパパにはこんなことを言われた。本当の自分は見つけるものじゃなくて、こうなると決めるものだって。どうなりたいのかは、わたしにもよくわからない。とりあえずはママのようになりたいと思う。でも、もなかさんやあずきさんのような女性にもあこがれるわ。わたしは、わたしという娘がいてよかったとパパとママが思える女になりたい。具体的にどんな女なのかは高校に入ってから考えるわ」
そう言って、海に向かって伸びをした。
「すてきなご両親ですね」
「うん。パパのこともママのことも大好き」
もなかさんの両親は離婚している。お母さんの不倫が原因だ。もなかさんは両親のことをあまりよく思っていないのだろう。でも、そのことでわたしがもなかさんにしてあげられることは何もない。
「わたくしも莉子お嬢さまのようになりたいですわ」
「え?」
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