脱がせ鬼(05)Fin
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その後、すぐに近所の交番から警官が駆けつけたそうです。全裸の女性が叫び声をあげながら住宅街を走り回っているという通報があって、近所をパトロールしていたということでした。
病院に連れて行かれて事情を聞かれました。脱がせ鬼に襲われた、と言っても信じてくれません。警察の偉い人か政府の陰陽師の人に連絡を取ってほしいと懇願しましたが、取り合ってもらえませんでした。
なんでもわたしは「ホーホケキョ」と繰り返し叫びながら走っていたそうで、頭のおかしい子だと思われてしまったのです。バッグの中に心療内科の診察券があったのが決定的でした。
尿検査で異常がなく、体にケガもないことが分かると、わたしは精神科に回されました。
けっきょく一日入院したあとで解放されました。
わたしの体験は誰一人信じてくれません。脱がせ鬼のことを教えてくれた友人も、電話はしたけどそんな話はしていないと言います。おそらく余計なことを言うなという圧力がかかったのだと思います。
自分なりに調べてはみたのですが、情報の糸をたどろうとするとなぜか途中で立ち消えになってしまうのです。ここにも警察か政府筋の圧力がかかっているようなのです。
不審な男に尾行されることもありました。超自然の存在に襲われるのも怖いのですが、生きている人間はもっと危険に思えました。それで脱がせ鬼について調べるのはあきらめるしかありませんでした。
ひとつだけ分かったこともあります。例の呪文はデタラメだったということです。全国的にむかしから有名な呪文だったらしいのですが、あれはトイレをのぞく妖怪を追い払うためのものだったのです。
あの恐怖の夜から五年の月日が流れました。けれど、ついさっき起きた出来事のように鮮明に覚えています。忘れたいのですが、脳裏に焼き付いて消えてくれません。
あれ以来、わたしはときどき深夜の誰もいない住宅街を全裸で歩くようになりました。もしも脱がせ鬼に襲われたらこんどこそ殺される。せめて下着は着けていたほうがいい。そう思うのですが、全裸露出の衝動を止められません。
わたしはおかしくなってしまったのでしょうか。
ひょっとして、脱がせ鬼がわたしを呼んでいるのでしょうか。
たぶんわたしは襲われて、体を引き裂かれて死ぬのでしょう。
だからこの手記を残しておきます。
忌まわしい邪悪なものが存在することを伝えるために。
あなただって、たまたま帰りが遅くなった日、ひと気のない夜道をひとりで帰宅しなければならないこともあるでしょう。
あなたが出会ってしまう可能性だってあるのです。
通い慣れたいつもの道だと安心しきって、角を曲がったその瞬間に――。
それは今夜かもしれません。
おわり
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