第3話 校内美少女ランキング (08)

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「確かにこのあたりから撮影されたみたいだ。でも、撮影者はぼくじゃない。ぼくが撮ったならもっとうまく撮れるし、もっと可愛く撮れるよ。ほかの部員でもね」

「先輩のことは疑っていません。知っていることや気づいたことがあればお聞かせ願いたいのですが」

「さあ、わからないな。コンピ部の連中じゃないの? 吉田に聞いてみたら?」

「コンピューター部にはあとで行きます」

「あのぉ……」

あたしが怖ず怖ずと手を上げると、岡野会長と赤坂さんが振り向いた。

「デジカメ写真にはGPS情報が埋め込まれてるって聞いたことがあるんですけど、それでどの部屋から撮影されたか特定できないでしょうか?」

赤坂さんは満面の笑顔になって、

「美星さん、カメラに詳しいね。うちに入部しない? まあ、位置情報が記録されてたとしても部屋まではわからないだろうな。ちょっと見てみようか」

赤坂さんはまた指先で操作を始めた。やがて残念そうに画面をこちらに向けた。

「Exifはいじられてないけど、GPSは記録されてないね。ケータイやコンデジと違って一眼レフだからGPS内蔵じゃなかったんだ。サイトにはケータイで撮られた写真もあって、そっちはGPSが記録されてるけど、校内で撮影されたことしかわからないな。まあ、屋内で撮影されたにしては結構な精度だと思うけど」

「そうですか……」

あたしがうなだれると、横から岡野会長が肘で突っついた。

「どういう意味だ?」

と囁くので、

「最近のケータイで撮影した写真のデータにはGPSを使った位置情報が埋め込まれてるんです。その情報を調べれば、撮影した場所の緯度と経度がわかるんですよ。地図サービスと連携させれば、撮影場所を地図上に表示することもできるんです。うっかりブログとかに写真を載せると、その写真に埋め込まれた情報から、自宅の住所とかを他人に割り出されてしまうこともあるんです。会長も写メをネットにアップするときには注意した方がいいです」

岡野会長はショックを受けたような顔をした。知らない人にはそうだろう。あたしだって初めて知った時にはそうだった。

というわけで、写真部ではたいした収穫は得られなかった。あたしは赤坂さんにお礼を言うと、隣の部室へと向かった。

写真部の隣は文芸部だった。部屋に入ると、男女合わせて十名ほどの生徒が向かい合わせにした机で慌ただしく作業していた。

あたしは岡野会長が「文芸部はコンピューターに詳しい」と言った意味を悟った。机の上にはノートパソコンが五台、窓際の机の上にはデスクトップのパソコンが二台置かれていた。その横で二台のレーザープリンターが続々と紙を吐き出している。

「文芸部はパソコンの所有台数がいちばん多いんだ」

と会長が説明した。

文集を作っているのだ。晴嵐の文芸部はレベルが高いと聞いたことがある。部数もかなり多い。印刷や製本を業者に頼まないのは――、まあ、間に合わなかったからだろう。

会長は永田さんという三年生の男子に声をかけた。永田さんは迷惑そうにしながら、手はパソコンのキーボードから離さない。

永田さんは校内美少女ランキングのことを知らなかった。朝は部室を使っていないそうで、部屋には施錠しているという。登校時間にカメラを持ってうろついている生徒を見たことはないそうだ。

あたしと会長は窓から外を見てみた。例の写真はここからなら撮影できそうだけど、パソコンとプリンターが邪魔でカメラを構えるには向かない。

「それより生徒会長。自分たちのパソコンが古いからって新聞部の連中がうちにパソコンを借りに来るので困ってるんだ。なんとかしてよ」

会長は「善処します」とだけ答えて、あたしたちは部屋を出た。

次に向かったのはコンピューター部だ。個人的にはここがいちばん怪しいと思っている。コンピューターに詳しくて女子に縁のないオタク男子、という犯人像にぴったりくるからだ。とはいえ、印象だけで犯人と決め付けるのはよくない。

会長が部室の戸をノックすると、メガネをかけた男子生徒が顔を出した。うさんくさそうに会長とあたしの顔を交互に見てから、

「誰?」

と、ぼそりと言った。

その口調には敵対心がにじんでいた。男子生徒は表情が暗く、そのせいであたりが急に薄暗くなったかのように感じられた。

「生徒会の岡野です。ちょっとお聞きしたいことがあるのです、吉田先輩。中に入れてもらってもいいでしょうか」

吉田さんという男子生徒の目が泳いだ。

「何で?」

部室の中から、ガサガサという音がしだした。ほかの部員たちが、見られては困るものを慌てて片付けているにちがいない。

「文化祭に関連することでいくつか確認したいことがあるのです。お手間は取らせません。部室に入れてくださいませんか」

「部室は散らかってる。話ならここでいいだろ」

そう返されて、岡野会長の体に緊張が走るのがわかった。険しい表情で戸を開けようとする。それを押しとどめるように吉田さんが戸をささえた。

「生徒会に入られたら都合が悪いんですか?」

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