「その……、すごく、きれいだ……」
「ありがと。援助交際しているといっても、男の人に裸を見られるのって、ほんとはすごく恥ずかしいんだ。でも、お父さんには見てほしい。成長した娘の姿を見てほしい」
「沙希ちゃん……」
あたしは村岡さんに身を寄せて、下着姿の体を押し付けた。厚みがあって頼もしい胸だった。煙草の匂いがする。大人の男の人の匂いだ。
すごくドキドキする。
不意に太ももに硬いものがあたる感触がして、あたしは思わず飛び退いた。
村岡さんのアレが勃起していたんだ。
「お、お父さんのエッチ!」
「ゴ、ゴメン」
村岡さんがあわてて外に出ていった。
胸が苦しい。
過激なスキンシップで誘惑しようとしてるのはあたしの方なのに。
あたしはため息をつくと、ブラをはずして、もとどおりに制服を着た。
結局、何も買わずにショッピングモールを出ると、もう太陽が西に傾きかけていた。
「ビーチに行ってみようよ、お父さん」
村岡さんと腕を組んで、ぴったりくっついて歩いた。
なかよしの親子。誰の目にもそう映るはず。
自分でもどこまで本気でどこから演技なのかよくわからない。
砂浜をぶらぶら歩く。
あたりにはほかにもデートしてるカップルが何組もいた。大学生かな。
「ちょっと座らない?」
あたしが立ち止まってそう言うと、村岡さんは上着を脱いで歩道の縁に敷いてくれた。
こういう優しさには胸がきゅんとなる。あたしはお礼を言って、腰を下ろした。すぐ隣に村岡さんも座った。
「学校は楽しい?」
「うん。学校は嫌いじゃないよ」
「でも、きょうは学校をサボっちゃったんだ?」
「あはは、きょうの授業は午前中だけだったのよ。あしたから中間テストだから」
「テストって……。おいおい、勉強しなくていいのか」
「大丈夫よ。そこそこレベルの高い高校だけど、普段から予習復習してれば、直前にあせってテスト勉強する必要なんてない。あたしはこれでも成績いいんだよ」
「勉強できるんだ。卒業したら大学に進学するの?」
「わかんない」
将来か……。高校卒業なんてずっと先の話だけど、卒業したらどうなるんだろう。
お嫁さんなんてただの夢だ。お姫さまなんてなれるわけないのはわかってる。
たぶんあたしを待ってるのは娼婦としての人生だろう。
風俗は嫌だな。相手を選り好みできないのは嫌だ。セックスは好きな人とだけしたい。
夢を見ていられるうちにすべてが終わってくれたらいいのに。
黙っていると、村岡さんに肩を抱き寄せられた。
ドキッとした。
父親が娘に向ける自然な愛情なんだろうけど、あたしの方はこんなに胸がドキドキする。
村岡さんに体重をあずけた。
交わす言葉なんてなくてもいい。いっしょにいる時間が大切なんだ。ただいっしょにいるだけで、お互いを想う気持ちは深まっていくものだ。
あたしたちは肩を寄せ合って対岸のビル街をながめ、打ち寄せる波の音を聞いた。
「ねえ、お父さん。お母さんのこと、好き?」
「ああ、好きだよ」
「そっか。よかった」
あたしのお父さんもお母さんのことを愛していた。
お父さんとこんなふうに過ごしたかった。
お父さんのことが大好きだった。
あたしの初めてのセックスはむりやりで、相手はお父さんだった。
お母さんに隠れて、何度も何度もお父さんとセックスした。
嫌だった。
怖かったし、痛かったし、叩かれたりもした。
だけど、お父さんは悪くない。
悪いのはぜんぶあたしだ。
あたしなんて生まれてこなければよかった。
だけど、生まれてきちゃったものはしょうがないじゃない。
生まれてきたことの罰なら、もう十分に受けたはずだ。
あたしを許してほしい。
せめて、あたしがお父さんを愛しているとわかってほしい。
「お父さん……」
[援交ダイアリー]
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