ピンクローターの思い出(06)

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 わけがわからず不安な表情を見せるまどかに、母親の恋人は微笑んだ。

「まどか、女の子はたくさんの男に抱かれるほどキレイになるんだよ。お前は可愛い。どんどん美人になる。これから人生で一番輝く時期を迎えるんだ。世界中の男たちがお前とセックスするために列を作ることになる。お前はしあわせものだぞ。さあ、この人に可愛がってもらってこい。何でも言うことを聞いて、うんとサービスするんだぞ」

 母親の恋人は男からお金を受け取ると、自分の車で走り去ってしまった。

 まどかは青ざめて震えていたが、怖くて抵抗することができず、男の言いなりになって車に乗った。連れて行かれたのは住宅街にある普通のワンルームマンションの一室だった。部屋にはダブルベッドが二つ置かれているだけで、男が生活している場所だとは思えなかった。

 まどかは両手をベッドに縛り付けられたあと、電動マッサージ器で陵辱された。イヤでたまらないのに、気持ちよくなってしまう。まどかのすすり泣きは男のサディスティックな欲望を煽るだけだ。男はまどかの服を剥ぎ取り、体位を変えながら何度もまどかを強姦した。まどかはただ耐えるしかなかった。

 翌朝になってようやく解放されたまどかを、母親の恋人が迎えにきた。男はいつもより多くお小遣いをくれた。お金を受け取ったまどかは、車の中で泣き出した。

 売春をさせられたということは理解できていた。集団強姦されたときに自分はどうしようもなく汚れてしまったと思っていたのだが、さらに下に落とされたことを思い知らされたのだった。

 それ以来、この男がまどかを犯すことはなくなった。かわりに売春をさせることにしたのだ。最初からそのつもりだったのかもしれない。まどかはほかの男にいやらしいことをさせないでほしいと頼んだ。

「何でもするから。おじさんとだったら何回でもセックスするから、知らない男の人のところへやらないで」

 母親の恋人とセックスするのはまだ我慢できた。誰かに強姦されなくてはならないのなら、この人の方がマシだ。しかし、懇願は聞き入れてもらえなかった。

 二人目の客に引き渡されるとき、まどかは泣きじゃくって「お父さん、助けて」と口走ってしまった。男はまどかをビンタして黙らせた。まどかはおとなしくホテルに連れて行かれ、されるがままに犯された。客は会社の社長だと言い、お父さんには内緒だよと、お金をくれた。

 こんなことがあっても学校には毎日通った。雄太と言葉を交わせたときだけは、世界に色が戻ったように感じられた。それ以外の時間は心を閉じた。

 自分から雄太に話しかけることなどできなかった。自分はほかの女子とは違う。生きている世界が根本的に異なる。優子が笑顔で雄太に接するようにはできない。優子が雄太と笑い合っているのを見るたびに、どす黒い嫉妬が湧き上がってくるのを必死に押さえつけた。

(中川くんがあたしだけを見てくれたらいいのに……。もっとあたしに話しかけてくれたらいいのに……)

 授業にはついていけなくなった。特に算数だ。テストで0点を取るようになり、先生に怒られた。でも、どうでもよかった。勉強なんかしたって、どうせ何の役にも立ちはしないのだ。

「お前は大人になったら売春婦になるんだから、いまのうちから男を喜ばせるテクを練習しておけ」

 母親の恋人はそう言ってまどかに三回目の売春をさせた。男が最初の頃に見せた優しさはもうなくなっていた。あれが全部まどかを騙すための演技だったとは認めたくなかった。言うことを聞いていれば、また『お父さん』のように愛してくれるのではないかという望みを捨てきれなかった。

 もちろん、それは子供っぽい幻想でしかなかったのだが。

 ところが、まどかの地獄は唐突に終わりを告げた。母親の恋人が首を吊って自殺したのだ。顔に殴られたあとがあるなど、警察は他殺の可能性も視野に入れていたが、けっきょく自殺という判断に落ち着いた。

 母親とともにまどかも警察の聴取を受けた。性的虐待を疑われたけれど、売春のことが知られると逮捕されるかもしれないと思って、聞かれたことにはすべて「知らない、わからない」と答えた。

 すっかり壊れて焼けただれていたまどかの世界は、木っ端微塵に消し飛んでしまった。母親は以前よりやさしくなった。長い夢を見ていたような気もする。まどかはどうしていいかわからず、かといってセックスを知らなかった頃の自分に戻れるわけでもない。空っぽになったまどかにとって、自分を現実の世界に結びつけているのは、雄太との短い会話、それとセックスの痛みの記憶だけだった。

 まどかは無意識のうちに新しいセルフイメージを模索しはじめていた。

 きっかけになったのは、三人目の客からもらった黒のガーターベルトだった。男はまどかにセクシーなランジェリーを着せて、お化粧もさせたのだった。カネで買い叩いたローティーンの娼婦を犯すというのがその男のフェチだったらしい。

 そのガーターベルトを着けてまどかは登校した。

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