ぴゅあぴゅあせっくす (04)
「俺と先輩の関係がダメになっちゃったとき、しーちゃん、何も言わなかったよね。先輩のことも悪く言わなかったし。だけど、ずっとそばにいてくれた。ほかの連中はさ、いろいろ慰めてくるわけよ。特に女子はさ、早く忘れなよとか、あの女は俺にはもったいないよとか、好き勝手なこと言ってくるわけ」
「あたしも慰めてあげたかったけど、恭ちゃんの気持ちを考えたら何も言えなかった」
「だからさ、それがありがたかったんだよ。しーちゃんは俺のこと本当にわかってくれたし、俺が本当に望むことをしてくれた」
「そ、それじゃ……。それじゃあ、あたしが本当に望んでいることはわかる?」
声がうわずった。心臓の音が恭介に聞こえてしまうんじゃないかと心配になった。
(恭ちゃんともっと深い関係になりたい。もっと深く繋がりたい)
テレパシーを送るつもりで、心の中で繰り返した。
恭介は恐れをなしたように目をそらした。
その瞬間、詩織は悟った。恭介は怖がっているんだ。
恭介に詩織の考えていることがわかってしまうように、詩織にも恭介の心がわかってしまう。たぶん、本当にテレパシーが通じてしまったのだ。気持ちが通じ合っていることに詩織は自信を深めた。
うまくいかなかった恭介と先輩の恋。恭介はひどく傷ついていた。それは先輩も同じだった。好きな人を傷つけ、自分も傷つくことを恐れている。
だから、詩織との恋に慎重になっているのだ。
詩織の中でさまざまな葛藤が渦巻いた。
自分は大切にされている。
恭介の気持ちを尊重して、焦らずにゆっくりとふたりの関係を育んでいく方がいいのか。
それともこの際、弱みに付け込んででも押しまくった方がいいのか。
焦って失敗したくない。だけど、初恋から五年も待ってようやくキスできたんだ。チャンスを逃したくない。この気持ちは止められない。
「キスだけじゃ……足りないよ」
詩織が声を震わせた。
「傷つくことなんて怖くない。恭ちゃんのこと、大好きだから」
「しーちゃん……」
「恭ちゃんと同じ場所に立ちたい。だから……」
詩織は顔を真っ赤にしてうつむくと、
「バージン……あげる」
言ってしまった。恥ずかしくて涙がこぼれた。
「えへへ、涙でてきちゃった。でも、恭ちゃんにもらってほしい。告白したのは先月だけど、ずっと前から恭ちゃんのことが好きだったんだよ。恭ちゃんがほかの女の子と付き合ってるとき、ほんとはすごくつらかった。幼なじみだから、距離が近すぎて異性として見てもらえないのかな、って半分あきらめてた。だけど、ほんとはずっと恭ちゃんの彼女になりたかった。ようやく恋人同士になれた。普通はだんだん親しくなって、お互いのことをよく知ってからエッチするのかもしれないけれど――」
詩織はひとりまくし立てているのに気づいて言葉を切った。苦笑しながら涙を拭うと顔をあげた。
「あたしたち、もう十分よく知り合ってると思わない?」
「しーちゃん……」
「恭ちゃん以外の人とじゃ、イヤだから」
言い終わる前に恭介に抱きしめられた。
詩織は恭介の体に腕をまわして応えた。幼なじみの体はしなやかな筋肉質で、力強くて頼もしかった。
きっと、それぞれの両親よりも互いのことをよく知っている。
恭介がその気になっているのはもうわかってる。
詩織の心は愛しさであふれた。
好きで好きでたまらない。
好きという気持ち以外、何も感じない。
好き。
好き。
好き。
大好き。
恭ちゃんにぜんぶあげる。
あたしのぜんぶ、恭ちゃんにあげる。
「しーちゃんのことが好きだ。愛してる」
「愛してるよ、恭ちゃん。いくら言っても足りないくらい」
「うん。でも、もうこれ以上、言葉はいらないよ」
恭介は詩織の体を離すと、もう一度キスしてきた。その手がワンピースの背中のファスナーにそえられるのを感じた。目を閉じたまま詩織は体を固くした。
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