おしっこガールズ (01)
緊張するとおしっこが近くなってしまう、というのがエリの大きな悩みだった。
たとえば今日のようにプレゼンを行うときだ。プレゼンといってもチーム内での発表だし、聞いている人もリモート参加を含めて五人しかいない。マーケターとして配属されて一年目のエリを育成するための、いわば練習試合のようなものだ。それでも人前で話すのが苦手なエリにとっては合唱発表会でソロパートを任されたようなプレッシャーで、始まるまえから下半身をもじもじさせていた。
持ち時間はたったの十五分だけど、嵐の夜のように長く感じられた。エリはすっかりあがってしまい、暗記していたはずの原稿内容も飛んでしまった。何度も噛みながらしどろもどろでどうにかこうにか最後まで説明を終えたものの、プレゼンの出来は散々だった。そのころには膀胱があふれそうで顔が引きつっていた。
しかもまだ終わったわけではない。発表のあとの質疑応答では、エリが考えもしなかった観点からの質問が先輩社員たちから容赦なく浴びせられた。プレゼンのやり方についてもいくつも指摘を受けた。エリは全身に矢を受けた戦国武士のように立っているのがやっとだった。顔を赤くして小刻みにステップを踏みながら耐えているエリの様子に――これはおしっこをがまんしていたからなのだけど――、さすがにかわいそうだと思ったのか、チームリーダーのテツさんがその場を切り上げた。
参加者が会議室を出て行きはじめると、背中に冷や汗を感じながらも心が軽くなった。
(うう、これでやっとトイレに行けるゥ)
ところがテツさんがエリを呼び止めた。最初はうまくいかなくてもいいんだよとか、俺も新人のころは何度もダメ出しされてヘコんだものだよとか、SQLにも慣れてきたようで安心したよとか、いまのエリにとっては悪魔のようにどうでもいい話を始めた。
(トイレに行かせてください! 漏れそうなんですッ)
とも言い出せず、股間に力を入れて必死に耐え忍んだ。
ようやく解放されたときには、歩くのもキツイ状態だった。
(あうう、走っていきたい。けど、走ったらぜったい漏れる……。うぐぐぅ……)
全身に力を込めていないと漏れちゃいそう。下腹部に感じる鈍い痛みをがまんして、エリはロボットのようにぎこちない歩みでトイレへと向かった。
トイレに着いてみると、三つある個室のドアはすべて閉まっていた。
(そ、そんなぁ……)
エリは額に汗を浮かべて、永遠とも思える時間を待ちつづけた。ようやくドアのひとつが開いたときには、もう限界を超えていてぴょんぴょん飛び跳ねている有様だった。
エリは駆け出して、出てきた女性と入れ替わりに個室に入り、勢いよくドアを閉めた。
そしてスカートを――。
「ああぁぁっ、タイトスカートなんてはいてくるんじゃなかったぁぁっ!」
スカートをたくしあげようと焦れば焦るほど、裾が膝に引っかかってうまくいかない。
(うぁぁぁっ、漏れる! 漏れるぅ!)
足をガクガクさせながら必死にスカートを腰まで上げた。
(でも、まだパンストがあるぅぅッ!)
スカートを両手で支えながら、親指をパンストのゴムにかけ、下にずりおろそうとした。ところが汗で湿った脚にパンストが貼り付いてうまく脱げない。パンストをすこし下げたところで、親指をパンツにもかけて、パンストと一緒におろそうとする。たくしあげたスカートが下に落ちそうになって、それを直そうとするとパンストがおろせない。
「ひゃあぁぁぁっ、待って待って待ってぇぇ!」
あぁ……。
……。
――間に合わなかった。
パンストとパンツを脱げないまま、熱いおしっこが股間を濡らすのを感じていた。
エリは脱力して便座に座り込んだ。
(うう……、とまらない……)
おしっこはパンツとパンストから染み出して、ジョボジョボと便器に落下した。せめてスカートだけは汚れないようにと腰までたくしあげた格好で、がっくりとうなだれて待つしかなかった。
そんなエリをからかうように強烈な快感が背中を駆け抜けた。
「ひゃうううっっ!」
思わず声が出てしまった。
終わったあともしばらく立ち上がれなかった。ぐしょぐしょになったパンツが不快なせいで、解放感なんて微塵も感じない。
(漏らしてしまった……。二十三歳にもなって……)
エリは放心したままパンストとパンツを脱いで、ほかの個室に入っている人がトイレを出ていくまで待った。パンストはいまので伝線してしまったので捨てることにする。パンツはレースのすこし値の張るやつだから手洗い場で洗おう、でもパンツを干す場所なんてあるかな、などと思い悩みながら個室を出た。
「漏らしちゃったのね?」
「うわわわぁぁっ!」
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