お兄ちゃんと不倫しました (02)

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「奈々ちゃんのお母さんがぼくの親父と不倫をして奈々ちゃんが生まれたということは、つまり、奈々ちゃんはぼくの妹、だね」

 そう言って、微笑みかけてくれたんです。

 ほとんど感情の起伏がなくなっていたわたしですが、そのときは胸が痛くなるほど激しく心を揺さぶられました。お父さんがいるけどいない、そんなわたしにとってやさしい兄というのは憧憬の対象だったんです。

 お兄ちゃんは大学一年生で、親元を離れて一人暮らしをしていると言いました。父親に対しては特別に悪い感情を抱いているわけではなさそうでした。あまり関わりたくないという感じで、父親と不倫相手のどちらの肩を持つというわけでもなかったです。けれど、cわたしの存在を受け入れてくれたことはすごくうれしかったです。

 あと数分もすればお母さんともども追い返される、と思ったわたしは、何とかお兄ちゃんとの絆を作ろうと必死に考えを巡らせました。そして、

「年賀状を出したいので住所を教えてください」

 とお願いしました。

 我ながらうまい口実を思いついたものだと思いました。身内にお葬式があったときは年賀状を出さないのだということは知らなかったんです。

 こうして、わたしとお兄ちゃんは文通を始めました。手紙の内容は日常のたわいのないことです。雪が降ったとか、花が咲いたとか、そんなようなことばかり。学校には行けず友達もいなかったので、ほかに書くことがありません。それに、わたしはいろいろと闇を抱えていたので、あまり自分のことを書くと嫌われると思ったんですね。

 でも、手紙のやりとりはボロボロだったわたしを支えてくれました。当時はお母さんともあまりうまく行ってなかったので。

 その後、不登校だったわたしは別の中学に転校することになり、新しい学校ではいじめられることもなくなりました。そして「中イキ」という体験をしたわたしは、セックス大好き少女として覚醒していくことになります。

 中学を卒業するころには心の病も改善していて、お兄ちゃんとの手紙のやりとりもなくなって、用事があるときはメールか電話で、ってことになっていきました。互いの親には秘密にしていたのですが、わたしたちはどこにでもいる兄と妹の関係になれたのです。

 まあ、すぐに体の関係になっちゃったんですけど。

 お兄ちゃんが結婚したとき、式には呼ばれなかったので、ふたりだけでささやかなお祝いをしました。その後は、あまり会わなくなりました。奥さんが嫌がるんだよね。

 昨年、久しぶりに連絡を取ったのは、わたしが再婚したことを伝えたときです。

 お兄ちゃんからは、お祝いしてやるから一度会おうと言ってきました。東京の二回目の緊急事態宣言が出るちょっと前で、新規感染者がどんどん増えていっている頃でしたけど、レストランを取ってランチコースでお食事しました。

「旦那さんには、わたしの過去は何も話してない。いままで打ち明けて受け入れてくれた人はいなかったから。もしも知られちゃったらって思うと不安になる」

 というような悩みを相談すると、お兄ちゃんの方も、

「ぼくの方も、いま夫婦仲が険悪になってきていて、けっこう参ってる」

 と、疲れた感じで打ち明けてきました。

 お兄ちゃんの会社は最初の緊急事態宣言が出たときから完全テレワークになっていて、ずっと家で仕事をしています。奥さんは――ここでは恭子さん(仮名)と呼ぶことにしますが――ときどき出社することがあるそうですけど、同じようにテレワークで働いています。テレワークで働いている夫の姿に惚れ直した、とかで夫婦仲がよくなったという話はよく聞きますが、そうじゃない夫婦もやっぱりいるわけで。

 恭子さんは高学歴のバリキャリで年収もお兄ちゃんと同じか、ヘタすると上回るくらい。いわゆるパワーカップルというやつです。バリキャリの人は見栄っ張りで人を見下すので好きじゃありません。

 恭子さんとは何度か顔を合わせたことがあります。わたしがお兄ちゃんの妹だということは説明しようがないので言ってなかったですが、夫を「お兄ちゃん」と呼んでべたべたまとわりつく頭も股もユルいバカ女と思っているのは隠そうともしません。美人なのは認めるけど、はっきり言って性格ブスの嫌な女です。

 コロナ禍のストレスで苦しんでるのかと思うといい気味です。けれど、そんなことでお兄ちゃんに当たり散らすなんて許せないし、お兄ちゃんに相応しい女とは言えないです。

 どうせテレワークで残業ができなくなったせいで収入が減ったからカリカリしてるんでしょう。だけど、あんな女とは離婚した方がいいよ、とか無責任なことも言えず、ありきたりなことしか言えない自分が悔しかったです。

 嫌な女のせいでストレスが溜まってるお兄ちゃんのことがかわいそうになりました。

 お兄ちゃんが大人っぽくなったわたしに欲情してることが感じ取れたので、いっしょにラブホテルに行ってあげることにしました。

 といっても、わたしも新しい人と再婚したばかりなんだし、お兄ちゃんが期待してるようなことはできません。お兄ちゃんだって人妻になったわたしを襲ったりする人じゃありません。ただラブホテルに入るだけです。誠実な男性というのは、こういう行為でけっこう自信を取り戻して元気になるものなんです。

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