第3話 校内美少女ランキング (11)

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家には誰もいなかった。お母さんはたぶん夜中にならないと帰ってこないだろう。同じ家で暮らしていても、滅多に顔を合わせることはない。あたしが二人組の男に自宅で強姦されたあの日以来、あたしとお母さんの関係は壊れたままだ。

自分の部屋の鍵をあけて中に入り、内側からまた鍵をかけた。ベッド、鏡台、姿見、ミシン台、ちいさなチェスト、それに組み立て式のワードローブがふたつ。そういった家具で部屋は埋まっている。

部屋着に着替えて、ベッドに寝転がった。

ケータイのアドレス帳に登録した岡野会長のメアドをながめた。岡野恵梨香先輩。美人で聡明で行動力があって、ちょっぴりヤキモチ焼き。すごくすてきな人だった。知り合えたことがうれしい。

ふと思い出して、三ツ沢さんにお礼のメールをすることにした。

『さっきはありがとう。裏サイトの管理人は見つからなかった』

すぐに三ツ沢さんから「また明日」という返信が来た。

すこし考えてから、三ツ沢さんのメアドをアドレス帳に登録した。あの子のことが好きになったわけじゃないけど、少なくとも人気者だし、悪人じゃない。岡野会長と知り合えたのもあの子のおかげだ。

もしかしたら友達になれるのかもしれない。

もし友達になれるのなら、うれしいかもしれない。

「友達か……」

バカだな、あたし。

中学のとき、三ツ沢さんのようなクラスの人気者から散々いじめられたんだ。

またいじめられるかもしれない。

だったら友達なんていらない。敵になるだけの友達なんていらない。

「友達なんて……」

ほんと、バカだな、あたしは。

友達なんてできるはずがない。

三ツ沢さんがほんとはすごくいい人で、あたしのことを好きになってくれたとしても、ほんとのあたしを知ったら、友達でいてくれるはずがない。

岡野会長だってそうだ。

拓ちゃんだって……。

あたしはほんとの自分を誰にも見せていない。

誰にも見せれるわけがない。

文化祭の衣装を作ってクラスの一員になれたつもりになっていた。

アリスのコスプレを可愛いと言ってもらえて舞い上がっていた。

美少女ランキングに名前を載せられて迷惑だと思う一方で、実はちょっとうれしかった。

いい気になってた。

どうしようもないバカだ。

あたしはベッドからのそのそと起き上がると、ミシン台の上に置いてあったノートパソコンの電源を入れた。暗号化されたファイルを仮想ドライブにマウントする。そこには三個の動画ファイルが格納されていた。

急に息苦しくなってきた。マウスを持つ手がうまく動かない。

激しい怒りと悲しみ、それに絶望感が心を満たしはじめた。手足の筋肉がこわばって痛みを感じた。

だけど、沙希、あんたは自分がどんな女かもう一度思い知るべきだ。

動かない指先に鞭打って『1』という名前のファイルをダブルクリックした。動画プレーヤーソフトが起動して、動画が再生されはじめた。

ガーターストッキングとピンクのベビードールだけを身につけた幼い少女が、小太りで全裸の中年男に組み敷かれている様子が映しだされた。少女の胸はぺったんこで、脚は棒のように細い。男は腰を振りながら、少女の首筋をなめている。少女は必死に男の体を押しのけようとしているけど、力でかなうはずがない。できるのは泣きながら、やめてと懇願することだけだ。

このビデオが撮られたのは十一歳の誕生日だった。六年生になるのだから大人っぽい下着を買ってやろうと、お父さんは言った。ランジェリーにはあこがれていた。エッチな下着を着て、ホテルに連れて行かれて、いつものようにお父さんとセックスするんだ、と思った。

ところが、ホテルには別の男がやってきた。どういうことかわからず、ベッドの上でうずくまっていると、お父さんは男から五万円を受け取った。

男が襲いかかってきて、あたしは強姦された。

お父さんがその様子をビデオカメラで撮影した。

それがこの動画ファイルだ。

『やめさせて、お父さん! 助けて。痛い。いやだ。痛いよ。やだぁ』

『沙希、お前は俺の娘じゃない。赤の他人だ。売春婦の娘は売春婦でしかない』

お父さんがそう言う声が、あたしの泣き声に混じってスピーカーから流れた。

お父さんはあたしが憎いんだ、と、あのとき初めて悟ったんだ。あたしはお父さんのほんとの娘じゃない。お母さんがほかの男と不倫してできた子だから。

お父さんに愛される資格なんて、あたしには元からあるはずなかったんだ。

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