いけない進路相談 (15)

「ねえ、真琴。先生のこと本気で好きなの?」

「好きよ」

「だって、教師と生徒だよ。歳だって離れすぎてるでしょ。うまく行きっこないよ」

真琴は操をにらみつけた。操は少しひるんだ顔をしたが、目を伏せるとボソリと付け加えた。

「矢萩先生は、やめたほうがいい……、と思う」

「なんでそんなこと言うの?」

真琴が操を問い詰めた。お前の恋はうまくいくはずない、などと親友から言われたら誰でも腹を立てるだろうが、真琴の本心はもちろん違っていた。

(あたしが先生に近づくのを心配しているのか。あたしが先生に襲われるんじゃないかと思って? あたしをかばおうとしてる?)

そう考えたところで、真琴はふと別の可能性に思い当たって、寒気を感じた。

(もしかして、操は矢萩との関係を恋だと勘違いしてるんじゃないのか?)

操は黙ったままだった。泣きそうな顔だ。

(操は矢萩先生に肉体関係を強要されていて、操はそれに泣きながら耐えていて、そのことを誰にも言えずに苦しんでいる。そう思っていたけれど……。もしかして操はそれが恋だと思ってるんじゃないのか? 男から暴力を振るわれている女性が、その男から離れられなくなってしまうように。操ならそういうこともあるかもしれない。あたしだって、あの日、先輩とセックスしていたら、先輩の正体がわかったあともずるずると関係を続けていたかもしれないんだ)

目の前が真っ暗になる思いだった。今朝の図書室での光景が脳裏によみがえる。たった一人で暗がりですすり泣いていた操。まさか、いちばんの親友がそんなことに巻き込まれているなんて。

(もしそうなら、矢萩先生を退治するだけじゃすまない。操のケアもしないと)

真琴は深いため息をついた。

「教師と生徒か……。操の言うとおり、確かにうまくいかないかもね。ねえ、操。矢萩先生って、どういう女が好みだと思う? 操は先生と親しいじゃない。だから、先生のこといろいろ教えてほしいんだ」

「し、知らないよ。あたし、先生の好みのタイプなんて。そういう話はしないし」

「そっか。でもね、あたし思うんだけど。先生って、けっこう若い子が好きっていうか、少女に興味あるんじゃないかなー、ってね。うーん、少女に興味がある、なんていうとちょっと変態っぽいか。ロリコン気味っていうの。あー、こっちのほうが変態だね。要するに、あたしにもそれなりに勝算あるんじゃないかって思えるわけよ」

「先生は大人の女性が好きだと思う」

「さっき知らないって言ったくせに。操はけっこう以前から先生に勉強教えてもらってるよね。そのとき先生にいやらしいこととかされなかった?」

目を伏せたままの操の体に緊張が走るのがわかった。切り込みすぎたか。

「そんなことないよ。先生、優しくていい人だし……。真琴が思ってるようなこと、ぜんぜんないよ」

「ふーん。でも、先生、十代のセフレがいるらしいのよ」

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