新婚不倫 (11)
「話してください。則夫さんとのセックスはどうでしたか?」
「……すごく、よかった……」
あたしは消え入りそうな声で答えた。
則夫さんのアプローチは積極的だったけど、セックスについては及び腰だった。則夫さんは女にもてる。メイドさんたちのあいだでも人気があって、同じメイドカフェでバイトしていた理紗子も則夫さんに夢中になってたクチだ。
優しくてハンサムで頼りがいがあるだけでなく、男性フェロモンがムンムン漂うようなセクシーさも持ち合わせている。それでいて女性に対しては常に紳士的で誠実だった。
でもね、則夫さんの態度の裏にあるのものが、女に対する一種のコンプレックス、あるいは恐れなんだってことに、交際しているうちにあたしは気づいたの。もしかしたら、継母とうまくいっていなかったのかもしれないな。子供のころ父親が再婚した相手、いまではあたしにとっても義母にあたる女性は、気さくで優しく、あたしとも仲が良かった。でも、則夫さんはわだかまりを感じていて、そのせいで女性に対して素直になれないんじゃないかな、とあたしは考えた。
だから則夫さんが体を求めてきたとき、あたしは自分が則夫さんにとって特別な女なんだって実感できたんだ。
驚いたことに、則夫さんは童貞だった。三十近いのに女性経験がないことを則夫さんは恥じてはいなかった。むしろあたしの方が自分の過去の男性経験を恥ずかしく思ったほどだ。でも、このことはレオくんには黙っていよう。則夫さん本人が気にしていないとしても、レオくんはきっと変に思うはずだから。
それに男のひとってそういうの、ほんとは恥ずかしいんだよね。
童貞であっても則夫さんのセックスは素敵だったよ。それはきっと愛情に包まれていたからだね。
気持ちよさってことなら、レオくんの方が上かもしれないけど。レオくんはセックスがうまいかもしれないけど。だけど、則夫さんだって……。
「ご主人はそんなにセックスがうまかったんですか?」
「則夫さんは、あたしを初めてイカせてくれたひとだよ。だから、このひとがあたしの運命のひとなんだなって思ったの」
「セックスがうまいから結婚したんですか?」
レオくんの口調に非難の色を感じたあたしは、少しムキになって、
「イクっていうのは、愛している証拠だと思うの。ふたりが愛し合っていて心と心が通じ合って、初めてセックスの本当の悦びが得られるのだわ」
射精と違って、女にとってイクというのはよくわからない感覚だ。でも、理解できていなくても、イッたときにはイッたとはっきりわかった。それはロストバージンよりもずっと印象的な体験だった。初体験の相手よりも、初めてイカせてくれた男性の方が忘れられないものだもん。
「なんだか妬けますね。ぼくとのセックスじゃイケなかったですか?」
「そ、そんなことないよ」
あたしはあわてて否定した。否定したあとではっとした。
レオくんとのセックスはすごくよかった。何度もイッた。
それってレオくんのことを好きになっちゃったってこと……?
でも……。
レオくんとのセックスのほうが気持ちよかった……。
急に怖くなってきた。レオくんとのことは遊びだと割り切っていた。本当に愛しているのは夫だけだと。
だけど、夫よりもレオくんのほうがイカせてくれると知ってしまったら……。
それでも夫を愛し続けられるんだろうか。
そんなことになったら、ほかの男性に体を許してしまったことなど比べものにならないほどの裏切りだ。
あたしの心が揺れ動いているのを察したのか、レオくんは怪しげな笑みを浮かべた。あたしを立たせて、風呂桶の縁に腰掛けさせる。それからハンガーにかかっていたシャワーヘッドを手に取ると、お湯の温度を少し下げた。
[新婚不倫]
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