第9話 すべての呪いが生まれた日 (04)

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「か、かわいいー!」

部屋の真ん中に鎮座する天蓋付きダブルベッド!

思わず駆け寄って、マットレスの座り心地を確かめてしまった。

お姫様仕様に魔改造されたリビングはもはや完全にラブホテルだ。居抜きというから美菜子ちゃんのお父さんが娘のためにしつらえたものだろう。美菜子ちゃんには悪いけど、あたしもこんなベッドでお父さんにやさしく抱かれたかった。

「女子会向けのラブホみたいだろ? もしもミーナちゃんと女子会したかったら、いつでも貸すぞ。だが、俺はこっちの方が落ち着くな」

と、一条さんは本来の寝室のドアを開けた。

そこにもダブルベッドが置いてあったけど、こちらはダークブラウンでまとめられた大人っぽくてシックな部屋だ。ああ、いまから大人の男性に抱かれるんだ、って気持ちが高まるような素敵な雰囲気。

「部屋はあとひとつ、小さいのがある。ウォークインクローゼットとして使われていた。衣装もそのまま残っているが、サイズは沙希ちゃんにも合うだろう。俺はやっぱり制服姿の女子高生がいいな」

「ふふふ、でも、その前に――」

あたしの言葉に、一条さんがピンクの封筒を差し出した。女の子がラブレターを出すのに使うようなやつだ。

「全額前払いだったな。二十万ある。ミーナちゃんに払うのと同じ額だ」

「ありがとうございます。ねえ、女子高生と先生ごっこ、してみない? 担任の先生を好きになっちゃった女の子と、教え子への恋心を隠してる先生がついに結ばれるの」

一条さんはきょとんとした表情を見せたけど、すぐに笑って「おもしろそうだ、やってみよう」と言った。

あたしはクローゼットになっている部屋に入って服を選び始めた。アイドルっぽいものやドレスなど、三十着くらいあるだろうか。あたしも衣装持ちだけど、こういうタイプは持ってない。こんど作ってみようかな。ホテルで着替えればいいし。

制服はブレザーが二着と夏冬のセーラー服が一着ずつ見つかった。美菜子ちゃんのお父さんはJKコスにはあまり興味がなかったみたい。

前開きの長袖クリームセーラーに青系チェックのミニスカートを合わせてみた。靴下は白のハイソックス。スカーフは明るいブルーを選んだ。さらに、印象を変えるために髪ゴムでツーサイドアップにして細い黒のリボンを結んだ。あとは石鹸の香りのコロンをちょっぴりつける。

部屋を出ると、ちょうど一条さんが玄関から入ってくるところだった。自分も部屋で着替えてきたらしい。ブラウンスーツに青のネクタイ。女子生徒たちがあこがれるかっこいい男性教師。ちょっとドキッとした。あたしはスーツの男性に弱いのだ。

一条さんの方も、着替えたあたしを見てドキッとした様子だ。あたしは照れてしまって、逃げるように寝室に駆け込んだ。一条さんが追いかけてきて、ドアを閉めた。

確かにあたしは援助交際をしてる。頭も股もユルユルのバカ女と蔑む人だっているかもしれない。けど、エッチするときは恥ずかしいし、好きなタイプの男の人には胸がときめいちゃう。いまほんとにドキドキしてる。

「一条先生……、どうしてあたしを避けるんですか?」

と、落ち込んでる少女の表情を作ってスタート。

「え、なに言ってるの、沙希ちゃん」

「以前は放課後に質問に行ったら丁寧に教えてくれてたじゃないですか。なのに最近はなんか扱いがぞんざいだし。ほかの女子とは普通に笑顔で話してるのに……。なんで、あたしにだけよそよそしくするんですか。あたし……、先生に嫌われてるんでしょうか」

目を合わせず、不安そうな表情でおどおどした仕草を作ると、一条さんはあたしを抱きしめたいのをがまんするように両手をあたふたさせた。

でもすぐに自分の役を思い出して、

「そんなわけないだろう。先生は教師としてすべての生徒に平等に接しているよ」

「うそっ。ミーナちゃんなんか隣のクラスの子なのに、いつも先生と一緒にいるじゃないですか。そりゃ、ミーナちゃんの方が成績いいし優等生かもしれないけど。あたしだって先生の教科だから苦手な英語だってがんばって、成績だってアップしたのに。ちょっとくらい褒めてくれたって……。あたし……、あたし、先生のこと好きなのに!」

顔をあげて、悲壮感あふれる表情で一条先生を見つめたあと、耐えきれなくなった風で目をそらし、

「一条先生のことが好きです。一学期のときからずっと好きでした。教師と生徒だから、この恋はあきらめなきゃいけないって、わかってるけど……。だけど、一条先生に嫌われるのは……、いや……です……」

そう言われて一条さんはしばらく動けない様子だったけど、我に返ってあたしの肩にそっと手を添えた。

「ごめん、沙希ちゃん。そんなふうに思わせちゃったんだね。だけど仕方ないだろ。先生が教え子の女子高生に恋をしてしまったなんて、バレたら大問題になる。俺の気持ちが沙希ちゃんに気づかれないよう、無意識に距離を取ってしまっていたんだね」

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