失恋パンチ (06)

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三時限目の体育の時間、女子は体育館でバドミントンをすることになった。水泳の授業が雨で中止になったため、なかば自習のようなかたちだ。

好きな子同士で組になってバドミントンを始めた。由香は倫子と組になった。

奏は誰にも組になってもらえず、ラケットを持ったまま一人で立ちすくんでいた。体育の授業は二クラス合同だ。すでに隣のクラスにまで噂が広がっていたのだろう。

倫子とラリーを続けながら、由香は横目で奏の様子をうかがった。奏はあいまいな笑みを浮かべて、近くの組の子に声をかけたり小さく拍手をしたりしていた。相手からは無視されているが、奏としては仲間になっているつもりなのかもしれない。

腹が立つ。

奏を仲間はずれにしているクラスの雰囲気もむかつくが、それをなかったふりをしてごまかそうとしている奏にもいらいらした。

由香は倫子とのラリーを打ち切った。倫子には隣の組に混ざるよう言い残して、奏に近寄った。

ラケットの上で羽を転がしながら奏を見つめていると、奏も気がついた。

「あたしが相手になるよ」

そう言って、羽を放り上げると、思いっきり強いサーブを放った。奏はとっさに反応できず、羽は奏のおでこに命中した。羽は一瞬でスピードを失うが、顔に当たればそれなりに痛い。奏は怒るべきか、それとも相手をしてくれることを喜ぶべきか決めかねている様子だ。

結局、おでこをさすりながら羽を拾うと、へっぴり腰で由香の方へサーブを返した。それを由香はスマッシュで打ち返した。

「きゃっ」

羽がまた奏のおでこに当たった。

それを見たまわりの女子がざわつきだした。

奏は運動があまり得意ではないのを由香は知っていた。ひとりぼっちの奏を助けてやろうなどとは微塵も思っていなかった。由香はスポーツ万能だったから、自分の方が武一には合っているんだということを思い知らせてやろうと思ったのだ。

二回もおでこに当てられた奏は恨めしそうに由香をにらんだ。

由香は自分が奏をいじめているように見えることを承知していたし、奏がまさにそう思っていることにも気づいていた。

気持ちがすっとするのを感じた。

いじめはよくないが、これはいじめではない。制裁だ。自分には奏を苦しめる権利がある。由香はそう思った。

「どうしたのさ。早く打ちなよ」

わざと奏を挑発する。

奏のサーブを普通に打ち返し、奏が油断したところでふたたびスマッシュを打った。またしても羽が奏のおでこに当たった。

「どんくさいね、あんた」

由香は奏をあざけった。

その後も何度も羽をぶつけた。どうも奏はスマッシュが来ると足がすくんでしまうのか、逃げることもできないようだ。せめてラケットで顔を防御すればよさそうなのに、棒立ちになってしまう。

ひょっとしていじめられている被害者を演出しているんじゃないか、と由香は思い始めた。このままでは自分が悪者になってしまう。

なんだかばかばかしくなってきた。

そこへ隣の組の女子が放ったスマッシュが、奏の脚に当たった。

「ごめんごめん。ねえ、うちらもそっちの組に混ざっていい?」

と、羽をぶつけた女子が由香に尋ねた。

「あ、わたしも一緒にいい?」

反対側にいた別の組の女子も声をかけてきた。

バレーボールじゃあるまいし、バドミントンを六人で輪になってするなんてどうかと思った。しかし、別に反対することもないのでなりゆきにまかせていると、新しく加わってきた女子たちが、そろって奏に羽をぶつけはじめた。

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