「おお! 彩風雪奈さんのDカップおっぱいがわたしの勃起した息子に当たっています。しかもノーブラ! さあ、もっとファンとのスキンシップを楽しみましょう」
「ちょっと、押し付けないでったらッ」
「雪奈ちゃん、大丈夫? おっさん、ゆっきーに触るな。見るだけにしろよ」
見るのもやめてー!
「あなたもそう言いながら雪奈さんのお尻を触っているじゃないですか」
「俺は雪奈ちゃんを助け起こそうとしているだけだ。――あれ? 雪奈ちゃん、もしかしてノーパン?」
うわー! 触らないでったら!
と言う間もなく、小太りさんがワンピースのスカート部分をぺろっとめくった。
「うぎゃー!」
「雪奈ちゃん! やっぱりノーパンだったんだね。ああ、感動だぁ! 彩風雪奈のオマンコをナマで見れるなんて。すごくきれいだよ、ゆっきー。俺、もう出ちゃいそうだ」
「若い人は元気ですね。うらやましい。どれ、わたしにも見せてください」
「雪奈ちゃん、おっぱいも見ていい?」
「いやぁ! やめてぇ! 揉むなー!」
ジタバタともがいた末、ようやく通路に出ることができた。
ちょうどそこへ車掌さんが通りかかった。ワンピースをなおして、ぜいぜいと肩で息をしながらよろめいたわたしを、車掌さんが支えてくれた。
「大丈夫ですか? どうされました?」
車掌さんはわたしが泣いてる様子なのを見て、席に座っているふたりの男の方を厳しい表情で見た。チカン行為があったのではないかと疑ってくれてるのだ。実際そのとおりなんだ。
車掌さんにそのことを訴えようとすると、先にギョロ目さんが口を開いた。
「なんでもありませんよ。その女性はアダルトビデオに出演しているAV女優なのです。わたしたちは彼女の大ファンでしてね。彼女も我々ファンのためにノーパン、ノーブラでサービスしてくれていた次第で」
「そんなんじゃありません!」
「ほら、これが彼女の出演したアダルトビデオですよ」
小太りさんが話を合わせるようにパソコンの画面を車掌さんに見せた。わたしの顔がはっきり見分けられるほどアップになり、車掌さんがうさんくさそうにわたしをにらんだ。
「あのビデオに写っているのはあなたですか?」
「そ、そうですけど……」
それから車掌さんはあたりを見回した。ほかの乗客の注目を浴び始めていた。車掌さんはふたたびわたしをにらんで、
「まさか、ここで撮影していたのではないでしょうね」
「ちがいます。わたしはこの人たちからセクハラを受けていたんです」
車掌さんが男たちの方に向き直った。ふたりの男は笑顔を作って首を振った。
「その女性は本人も認めているとおりAV女優なのです。偶然席がとなり同士になったのですが、こんな露出度の高いミニの服にノーパン、ノーブラですよ。いやはや、おかげで興奮しすぎてハメをはずしてしまいました。ほかの乗客の方たちに迷惑にならないようにと注意していたのですが、いや、失礼しました」
車掌さんがわたしの体を検分するように見ながら、
「どうして下着を着けていないんですか?」
「そんなのわたしの勝手じゃないですか」
ちゃんと服は着てるじゃない! それともパンツを穿かなきゃいけないって法律でもあるわけ? どうしてノーパン、ノーブラなのかって? 見えてしまうかもしれない、見られちゃうかもしれない。そんなスリルを楽しみたいからだよ。特にきょうみたいなどーしよーもなく暑い日はね。だけど、見せるかどうかの決定権はわたしにあるんだ。勝手に見るな! ましてや触るなんて言語道断だ!
と、叫びたい気持ちをぐっとこらえた。
近くの席の乗客たちがわたしの方を見てひそひそ話を始めていた。
「席、変えてください」
と、半べそかきながら小声で車掌さんに訴えた。
「あいにく本日は指定席も自由席も満席でして。グリーン車なら空席がありますが」
「それでいいです」
「そ、そんなァ。雪奈ちゃん、行っちゃうの?」
小太りさんが泣きそうな顔で言った。誰のせいだと思っとるんだ。
車掌さんは重大な犯罪の痕跡がないか最終確認するようにわたしと男たちを見た。それから車掌さんはわたしをデッキの方へとうながした。
涙をぬぐって男たちの方を向くと、わたしは深く頭を下げた。
「ファンの方とお話できてうれしかったです。どうかこれからも彩風雪奈を応援してください。あと、AV女優をなめないで。ビデオはちゃんと買ってください」
そう言うと顔を上げ、ギョロ目さんが小物入れに突っ込んでいたアイスのカップとスプーンを取り上げた。
「ゴミはわたしが捨てておきますから」
「あ、それはわたしが宝物にしようと思っていたのに……」
ギョロ目さんが情けない声を出して、カップとスプーンを取り返そうと手を伸ばした。わたしはそれを制してにっこり笑うと、
「アイスをごちそうさま、おじさん。これからも雪奈のビデオでいっぱい抜いてね」
まあ、なんにせよファンでいてくれたことには感謝です。
でも、やっぱりビデオは買ってくれなきゃ、ですよ。
[車内セクハラ事件]
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