ヘッドボードの棚に、蓋のない箱が置いてあった。中に入っているモノを手に取ってみる。こういうものがあるというのは知っていたけれど、実物は初めて見た。
「バイブレーターだよね、これ」
こういうの、すごく興味ある。
箱の中にはいろいろな形のバイブレーター、ローター、それに男の人のアレをかたどったシリコン製のモノを括りつけたベルトなどが入っていた。ふたりで使ってるのかな。
もなかさんが戻ってきたので、わたしはバイブレーターを箱に戻した。
もなかさんはハンガーにかかった数着の服をベッドに置いた。わたしはジャンパースカートとブラウスを脱いだ。ふわふわのジュニアブラとかぼちゃパンツ姿になった。家を出る前にママに下着まで着替えさせられたんだ。
「本当に申し訳ありませんでした」
「気にしないでください。じゃあ、これ、お願いします」
もなかさんは自分の失敗を心底辛そうに思っているようだった。わたしは努めて明るく言いながら、濡れた服を渡した。
もなかさんが部屋を出ていくと、わたしはベッドの上の服を吟味した。ぜんぶロリータ服だった。
「うわぁ、このワンピースかわいいっ」
サイズもわたしにぴったりだ。
もなかさんたちには小さすぎる。どうしてこんな服がこの家にあるんだろう?
ほかにももっとかわいい服があるんじゃないか、と思って、わたしは隣の部屋を見てみたくなった。
下着姿のまま、そっと部屋を出て、隣の部屋のドアを開けた。カーテンが閉まっていて薄暗い。物置部屋のようだ。
思ったとおり、ハンガーやワードローブにたくさんの女の子の服がかかっていた。ロリータもの以外に、子供用のフォーマルウェアも多い。
いったい誰が着るんだろう?
その部屋の中には、白いシーツがかけられた何かがいくつも置いてあるのに気づいた。ソファやベッドや椅子の上に何か大きなものが置かれていて、シーツがかけられているのだ。準備中の彫刻の展示会を思わせた。
なんだろうと思っていると、ソファの上にかけられたシーツから、何か黄色がかった白っぽいものが覗いているのが見えた。
なんとなーく、人間の腕のように見えるんだけど……。
まさかね。
「これ、なーんだ!?」
わざとおどけたセリフを言いながら、シーツをはがしてみた。
「うわぁぁ!」
ソファの上に、目を閉じた女の子が横たわっていた。
マネキンなんかじゃない。息をしていない。着ているものはジュニアスリップだけだ。血色は良くて、今にも目を覚まして起き上がるんじゃないかと思えた。
『まさか、この子が新しい犠牲者に……』『ご親戚のお嬢さまよ。だから、心配することもないでしょう』
別荘についたときのメイドさんたちの会話が脳裏によみがえった。
見てはいけないものを見てしまった……!
わたしはよろめいて尻餅をついた。足がソファにあたった。シーツの下から何かが落ちて、わたしの両脚のあいだに転がった。
「みぎゃあああぁぁぁっっ!」
一階まで響くほどの大声で叫んでしまった。
別の女の子の生首が、床の上からわたしを見つめていたのだ。
半べそをかきながら、ドアのほうへ床を這った。立てない。猟奇殺人という言葉が浮かんだ。逃げなきゃ。でも、栄寿さんとメイドさんたちが駆けてくる足音が聞こえた。
見つかっちゃう!
いったいぜんたい、どーゆーことなの?
この別荘でいったい何が起きてるの!?
つづく
Copyright © 2010 Nanamiyuu