第14話 童貞のススメ (16)Fin

[Back][Next]

 もたもたしてると朝岡さんがあたしの手をつかんだ。

「沙希、そいつから離れて服を着ろ。あんなに言い聞かせたのに、どうして自分を傷つけるようなことばかりするんだ。俺のことが好きだと言ってくれたじゃないか。俺がお前を守るから、もうこんなことはやめてくれ」

 すると高梨さんもあたしの手をつかんで引っ張った。

「沙希ちゃん、そんなヤツの言うこと聞かなくていい。朝岡との過ちは許すから。もう忘れなよ。高校を卒業したらぼくと一緒に暮らすんだろ? そしたらすぐに結婚しよう」

 ちょっと、ちょっと、ちょっとォ!

 いつ、あたしが、あんたたちを、好きだと、言った?

 うわー、そう思わせる努力はしたけど、こんなにうまくいっちゃうなんて。

 童貞くんだからゲームをしただけで、マジの恋人なんてなるつもりはない。

 二人だってあたしとセックスできていい思いをしたわけじゃん?

 ここでお開きってことにしようよォ。

「あのさ、朝岡さん、高梨さん。あの……、あたし、実は――」

 そう言いかけたとき、朝岡さんが馬鹿にしたように笑った。目が怒ってる。腹が立つのを通り越して呆れるしかない、って顔だ。

「結婚だって? 高梨、本気で言ってるのか? まったく、おめでたいな。お前、まだ気づいてないのかよ? ここにいるのは、あの『サキちゃん』だぞ。お前だってさんざん抜いただろうが。それでもこの子を受け止めてあげられるのかよ」

 なんだ、それ。どうゆう意味だ?

 意味がわからないけど、高梨さんは心当たりがある様子で、あたしから手を離した。

「冗談よせよ、朝岡……。沙希ちゃんが……、あの子……?」

「よく見ろ!」

 朝岡さんがスマホを取り出して、動画を再生してみせた。

 それを見た瞬間、あたしは頭の中が真っ白になった。全裸のまま悲鳴をあげて朝岡さんに飛びかかった。スマホを奪い取ろうとしたけど、朝岡さんが腕を高く上げて手が届かない。その間も動画の音声が部屋に響いた。輪姦される中学生のあたしの悲鳴だ。

「ヤダッ、消してッ、消してよッ」

 何度かジャンプしてようやくスマホを奪い取った。動画を止めて、急いでファイルを削除した。スマホを放り出して、両手で顔をおおった。涙がとめどなく溢れてくる。

「いつから気づいてたの?」

「あんたを初めて見た瞬間、もしかしてって思った。話してみて確信した」

 あたしは泣きながら朝岡さんの胸をこぶしで繰り返したたいた。

「ひどいよ、貴志くん。ひどすぎる……。無理やり押さえつけられて、服も下着も剥ぎ取られて、ビデオを撮られながら犯されたんだよ? 何人もの男に繰り返しレイプされたんだよ? あたしがどんな気持ちだったか想像できる? あたしがレイプされてる動画をオカズにオナニーしてたなんて……。デートのときもずっと汚い子だって思ってたんでしょ? あたし……、貴志くんのこと本気だったのに……。だましてたなんて……」

「それは違う! 俺は高梨とは違うよ。沙希のこと汚いなんて思ってない。わかった上で付き合いたいんだ。レイプされたことも援交してた過去も気にしない」

「ぜんぜんわかってない。過去を知られたのに彼女になれるわけないじゃん。あたし、経験人数三桁だよ? 貴志くんが知らないことだって、まだいっぱいある。せめて貴志くんの思い出の中ではキレイなままでいさせてよ」

 あたしはしゃくりあげながら服を着て、高梨さんから受け取った封筒の中から二十万円だけ抜き取って、残りをベッドに置いた。

「高梨さん、デートはここで打ち切り。差額分を返金します。それから、教えたメアドは破棄するから二人とももう連絡しないで。あの動画のコピーはぜんぶ消して。持ってるだけで逮捕されるよ。消さないなら通報するから。じゃあ、さよなら」

 足早に部屋を出た。二人とも呆然としていて、追ってくることはなかった。動画を見せられてちょっとパニックを起こしちゃったけど、駅に着く頃には落ち着いた。朝岡さんと高梨さんのそれぞれのラブストーリーにも、なんとか決着を着けれたと思う。

 まさか、ネットにアップされたあのビデオを持ってたなんて。トラウマは消えないし、腹が立つのも確かだ。でも、ヤリマンビッチのあたしにとってシコられるくらいなんでもない。そう思うしかないよ。これが援交少女の人生だ。

 思ってたのとは違う幕切れになっちゃったけど、今回の童貞狩りはこれでおしまい。

 あー、すっきりした。

第14話 おわり

[Back][Next]

[第14話 童貞のススメ]

[援交ダイアリー]

Copyright © 2022 Nanamiyuu