快感ストーム(07)

[Back][Next]

「メイちゃんは統和とペアを組みたい?」

「もちろんですよぉ。でも、そのためには須崎先輩を超えるようなすごいセックスプレイヤーにならないとです。いつか追い抜いてみせますよ」

「いい子ね。でも、まだまだトップの座は渡さないぞ」

 亜里沙は上機嫌で笑いながらメイを抱きしめた。この数週間、何だかわからないことで気分が乗らなかったのだが、それも何だかわからないうちに解消されたように思えた。何を悩んでいたのか自分でもわからないが、統和が戻ってきたら、もう大丈夫だということを見せてやろう。

「先輩、中国ペアの体験が始まりますよ。日本のライバルがどんなセックスをするのか見てやりましょう」

 メイがレシーバーのスイッチを入れ、亜里沙もモニターに向き直った。

 中国のリャンとシュエのペアは序盤からハイペースで攻めてきた。スポーツセックスはあくまでも全体構成で評価されるので、競技前に前戯を終わらせておき、競技開始とともに挿入セックスをする、といった作戦は意味をなさない。むしろ平常心からスタートする方がスコアが伸びる。だから競技前の前戯で気持ちを高めたあと、いったんフラットに戻し、競技開始とともにすばやく盛り返すことが必要になる。これは一種の演奏であって、感情と性愛の流れで感動の大きさを競うコンクールなのだ。

 体験開始とともにリャンの指が抑えていたシュエの快感を一気に引き出した。そこから前戯のトーンを落とし、シュエの怖れと期待を徐々に盛り上げながら、またしても一気に高原状態に高める。房中術では長い前戯を重視する。おそらく前のペアの体験中にじっくりと前戯をしていたのだろうと亜里沙は考えた。その高まりをポケットにしまうように隠してしまえるなんてさすがだ。

 リャンの興奮も高まっていき、後背位で挿入。シュエの両手を馬の手綱のように持って激しいピストン。シュエはMっ気があるのか恍惚となっていく。リャンは射精寸前で動きを止めた。呼吸を整え、いったん抜いてから対面座位の体勢でゆっくりと挿入。腰をグラインドさせ、気を巡らせながら二人で高めあっていく。

 リャンは寸止め状態をキープし、射精をしない。リャンの体験を共有している紅林コーチが体を硬直させて快感に耐えている。

 そのときだ。小林アナが絶叫した。

『あああーっ、うおおっ、射精! 射精ですッ。なんということでしょう、リャンが暴発してしまいましたァー。やはりオリンピックには魔物がいたーッ。これは痛恨ッ』

『シュエ選手の快感もトーンダウンしてしまいましたね。これは大きなミスです。房中術は射精をしないことを是としていますが、それは中国で体系化された現代房中術でも変わりません。中国ペアは最後の瞬間まで射精をとっておく作戦だったはずですから、ここから立て直せるか。リャン選手の連続射精はどうでしょうか』

『シュエがフェラチオをしていますが、リャンはなかなか勃起できませんね。暴発がよほどショックだったのか。あ、いま快感曲線が表示されました。ああッ、これはッ、快感曲線がナイアガラ崩壊!! 中国のリャンとシュエ、完全にペースを乱してしまいました』

『あーっと、これは? あ、賢者タイムですか? どうやら賢者タイムのようです』

『リャンが賢者タイム! 体験開始から7分、リャンが賢者タイムに入ってしまいました! メダル候補の中国ペア、万事休すかァ!!』

 その後、リャンはなんとか勃起に成功して体験に復帰したが、二人のセックスは精彩を欠いていた。それでも賢明に盛り返し、最終的なスコアは僅差でタイペアを凌駕した。

「予想外の結果だったけれど、中国の脱落はアタシたちにとっては僥倖ね」

 と、紅林コーチが静かに言った。ライバルの失敗を喜んでいる様子はない。これはどのペアにも起こりうることだ。

「これでアメリカに勝てば、先輩たちの金メダルは確実ですねッ」

 メイははしゃいでいる。亜里沙は黙ってメイの頭をなでた。

 紅林コーチは「上位三組の体験にそなえて何か食べてくるわ」と席をはずした。亜里沙は自分の中に期待と不安が盛り上がってくるのを心地よく感じていた。もうじき出番だというのに統和はまだ姿を見せない。次はオランダペアで、インタビューで統和が気になると答えていた姉弟だ。十九歳と十八歳だからスポーツセックスを始めたばかりのはず。亜里沙はオランダペアの予選結果を体験していたが、力を温存しているとみえて実力はわからなかった。上位のチームはどのペアも予選では全力を出さないからだ。そう思うと、自分たちが全力プレイでなんとか二位になれたのを思い出す。現在の暫定順位は一位がノルウェーで、フランス、中国とつづく。メダル確実とはとても言えない。それでも統和となら手が届くはず。予選の失敗は取り返してみせる。

 そんな決意を胸に、統和を探しに宮殿の外に出た。深夜だというのにあたりはいくつものライトで煌々と照らされ、ベルサイユ宮殿自体もライトアップされていた。多くの大会関係者や観客が大スクリーンのライブビューイングを楽しんでいる。宮殿前の広場に統和の姿を見つけた亜里沙は早足で近づいた。統和は堂本オーナーと紅林コーチと三人で何か議論しているようだ。

 三人のすぐそばまで行ったとき、紅林コーチが悲鳴のような声をあげた。

「金メダルを取れなければ亜里沙はクビですって!?」

[Back][Next]

[快感ストーム]

Copyright © 2022 Nanamiyuu