実を言うと、あたしは騎乗位があまり得意じゃないんだよね。
セックスのときは男の人にリードされたいし、甘えたい。
すべてを預けて頼り切りたい。
それで気持ちよくイカせてくれたときは、大切にしてもらえたって思える。
気持ちいいって言ってくれたら、あたしにも価値があるんだって思える。
自分でもよくわからないあたしのことを。
誰かが見つけてくれて。
つかまえてくれて。
抱きしめてくれたなら――。
その瞬間だけは、さみしくないもん。
そんな話をすると、
「じゃあ、こんどは騎乗位でやろう、沙希」
そう言って、田辺さんはベッドの上で仰向けになった。
「意外だな。沙希みたいに援助交際してるような子は、自分の思いどおりに動ける騎乗位の方が好きなんだと思っていたよ」
「援助交際する子だっていろいろだよ」
あたしは体を起こした。全裸の体はすこし汗ばんでる。石油ストーブを焚きつづけているおかげで田辺さんのアパートは熱帯の森のように感じられた。
「感じるポイントを自分で刺激できるから、ヘタな男にされるより気持ちよくなれるんじゃないのか?」
「ただ気持ちよくなるだけならオナニーと変わらないよ。それに騎乗位って疲れるだけで、あんまり気持ちよくなれないもん。あたしは男の人にリードしてもらう方が好き。先生はセックスがうまいしね。気持ちよくさせてほしいし、先生のことも気持ちよくさせてあげたい。その分、あたしのことも好きになってほしい」
「俺はお前のことが好きだぜ。はじめて会ったとき、『ふりでいいから恋人になってほしい』って言ったよな。どうして本当の恋人にはなってくれないんだ?」
「別に。タダでヤラせるのがもったいないだけ」
あたしがすねたように言うと、田辺さんはあたしの手を握りしめて、
「遊ぶカネ欲しさに援交してるようには見えないがな。といって、さみしさを紛らわすために誰でもいいからセックスしたいってわけでもなさそうだ。お前は自分のことを何も話さないな。自分のまわりに壁を作っている。ベッドの中でさえもだ」
あたしはため息をついた。
「田辺先生はあたしにセフレ以上の関係は求めてないでしょ? そーゆーの、わかるんだよ。それとも、あたしを奥さんにしてくれる?」
「俺は誰とも結婚するつもりはない。俺が求めているのは互いを束縛することのない恋人関係だ。それじゃダメなのか?」
「それはあたしが求めてるものじゃない。本当に愛し合える人と巡りあって、その人と結婚したい。それが夢。おかしいでしょ? こんな援交してる子と結婚してくれる人なんているわけないもんね」
「女の子らしい夢だ。それを笑ったりしないさ。まあいい。それはそれとして、俺は沙希と騎乗位でセックスしたい。カネは払った。恋人のふりをしてくれよ」
「田辺先生が騎乗位でしたいっていうなら、いいよ」
田辺喜史さんは命の恩人だ。この人が望むならどんなプレイでも応じてあげたい。ただし、お金はもらう。これが援助交際だって線引はしておかなくちゃいけないと思うから。
ぎこちない動作で全裸の田辺さんにまたがり、両膝をベッドについた。あたしの股間のすぐそばに、アレが力強くそそり立っていた。
「新しいゴム、着けてあげるね」
コンドームのパッケージを破ってゴムを取り出すと、田辺さんのアレに手を添えた。硬くて熱い。さっき射精したばかりのアレは精液で濡れていた。あまり刺激しないよう注意しながら、ゴムをかぶせた。
田辺さんはあたしの動作をじっと見守っていた。自分から動くつもりはないみたい。ぜんぶあたしに任せるつもりだ。
教師をしている人は、こういう態度を取ることがよくある。授業と同じように考えてるんだろう。まず生徒にやらせてみて、うまくいかないところがあれば指導する、というわけだ。そんなとき、経験の少ない子のフリをすることもある。わざとヘタに振舞って、男性に教えさせてから、こんどはうまくやってみせるんだ。そうすると大抵の男の人はすごく喜んでくれる。相手の人が喜んでくれたらあたしもうれしいし。一期一会ならできるだけ楽しんでほしいもんね。
だけど、田辺さん相手にそんな演技をするつもりはなかった。てゆうか、騎乗位はあまりやったことないし、うまくできる自信もない。
アレがアソコの真下にくるよう体を移動させ、手に取って位置を合わせる。
アレを上からアソコで押さえるようにして、手を離した。田辺さんが両手を伸ばしてきて、あたしはその手を取って指をからめた。
「やりかた、教えてよ」
[援交ダイアリー]
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