「それ、高校入試対策用のかなり難しい問題集じゃないですか」
「おっ、表紙を見ただけで問題の難易度までわかるなんてさすがだね。この問題集を使ってあたしと莉子ちゃんで勝負しようというわけさ。負けたほうが勝ったほうの言うことを何でも聞くというのはどう?」
「わたしが負けたら、さっきのバイブでオナニーしてみせろとでも言うつもりですか」
あずきさんの目が輝いた。
「いいね、それ」
「わたし、数学は得意科目ですよ。高校卒業してから二年もブランクがあるのに、現役生に勝てると思ってるんですか」
「わっはっはっ、あたしも数学のテストでは毎回百点を取ってたんだよ。まだまだ若いものには負けんよ」
「じゃあ、わたしが勝ったら、あずきさんの好きな人を教えてもらいます」
思わず言ってしまったけど、好きな相手の名前を白状しろなんて、学校の友達でもないのに無意味だと後悔した。こういうところが子供っぽさなんだろう。オナニーショーとじゃ釣り合わない。大人は狡猾だ。
どういうわけか、あずきさんはわたしの言葉を聞いて真顔になっていた。もしも勝負に負けて想い人の名前を言わされるはめになったらどうしようと、本気で心配している顔だ。大人もけっこう単純だな。
わたしはため息をついて、
「とりあえず、休みだからといって遊んでないで勉強もしろ、ってことなのはわかりました。勝負とか忘れて、問題集に取り組みますよ」
あずきさんはもなかさんのことが好きなんだろう。想い人の名前を知られて困るなら、その人はわたしの知り合いなわけだし、わたしとあずきさんの共通の知り合いというと、お父さんと夏目おじさんともなかさんだけだ。あずきさんはレズビアンなんだから、相手はもなかさんということになる。
最初はもなかさんもあずきさんのことが好きなんじゃないかと思ったけど、もなかさんはレズビアンに理解がないってあずきさんは言うし。なんだか難しいことがいっぱいあるみたい。
結局、わたしはひとりで数学の問題集をやることにした。驚いたことに、あずきさんは本当に数学が得意らしく、しかもいまでも力は衰えていなかった。その上、教え方もうまくて、受験生相手の家庭教師として通用するくらいだった。もしも勝負していたら、オナニーショーをすることになっていたかもしれない。
お昼ごはんはあずきさんが用意した。わたしの家ではパパがご飯を作ることが多いんだけど、お父さんは料理がからきしダメなんだそうだ。
お父さんともなかさんが離れの書斎から戻ってきて、四人で昼食にした。食事はいつも三人で食べているのだという。なんとなくメイドさんたちは別に食事をとっているのだろうと思っていた。
「ほら、栄寿さま、ちゃんとエプロン付けてください。栄寿さまはすぐご飯をこぼすんですから」
もなかさんにエプロンを渡されるお父さん。もなかさんのほうがお姉さんみたい。ご主人さまとメイドというより、家族のように見える。実際、この三人はこの海辺の別荘で家族のように暮らしていたのかもしれない。
『わたくしたちの今の生活を壊さないでください』
きのうここへ来たとき、もなかさんはそう言ったっけ。
『どーなっちゃうのかなぁ』
さっきあずきさんが言ってたのは、今の生活がどうなるのかということだったのかな。
わたしがお父さんとセックスしたことで、三人の今までの生活が変わってしまうかもしれない。それが不安なのかも。
だけど、変わるに決まってる。
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