夏目おじさんは戸惑ったように栄寿さんを見て、
「そうなのか?」
と訊いた。
「ま、まあ、そういうことなんだ」
栄寿さんが答えると、夏目おじさんは心底ほっとした様子で、
「そうか、よかった。なら、これからもその調子で努力するんだ。いずれお前も誰か相応しい女性と結婚するときがくるだろう。そのときまでに、まともで恥ずかしくない男になれるようにな」
実の娘の前でひどい言い方をしてくれる。メイドさんたちがこれからもセックスの相手をするのが当然だという言い方にも腹が立った。わたしは少々むかつきながら、
「それについては、もなかさんとあずきさんの意見も聞くべきだと思うんだけど」
「ん? ああ、もちろんだとも。ふたりともこれまでどおり働いてくれるね?」
もなかさんが深々と頭をさげて、
「夏目さま、実はお願いがあります。わたくしは子供が欲しいと思っているのです。どうか栄寿さまとのあいだに子供を作ることをお許しください」
夏目おじさんは呆気に取られてもなかさんを見つめた。わたしも、もなかさんがそんなストレートにおじさんにお願いするとは思ってなかった。というか、事後報告でいいじゃん、と思っていた。
「それはつまり、栄寿と結婚したいということなのか?」
「とんでもございません。わたくしはただ子供を作りたいのです。夏目家にご迷惑をかけるつもりはありません」
「あたしからもお願いします、夏目さん。もなか――、栗原さんの望みをかなえさせてあげてください」
あずきさんも頭をさげた。
おじさんは渋い表情になって、栄寿さんに視線を移した。栄寿さんは一瞬戸惑ったような表情をしたけれど、
「ぼくは構わない」
それを聞いて夏目おじさんが栄寿さんに掴みかかった。
「お前が構わないといって済ませられる話じゃないだろう。莉子が実の娘だと知ってもまだそんなことを言うのか。彼女と結婚するのだと言ってもそんなこと許されるはずもないが、結婚もしないのに子供を産ませるだと? 私生児だぞ。遺産相続のときにだって問題になる」
私生児だなんて。法律家らしからぬことを言う。そういう子供は非嫡出子というんだよ。そもそもわたしもそうなんだけど。わたしも夏目家の遺産問題にかかわってくるのかなぁ。
まあ、おじさんが素直に許すはずないとは思ってたけどね。
「おじさん……、おじさんはわたしが生まれたのが迷惑だった? 結婚もしてないママが産んだ子供なんて、面倒のタネだと思ってたの?」
わたしは悲しげな表情を作って尋ねた。腹は立つけど、本当に悲しかったわけじゃない。でも、おじさんはわたしがショックを受けたと思い込んであわてた。
「そんなことあるわけないだろ。とにかく、あのころはみんな若すぎた。間違いだって犯すさ。でも、いまはもう大人だ。俺は経験から学んだし、栄寿だってそのはずだろう」
「わたしが生まれたという間違いから学んだってこと?」
「いや、それは……、そうじゃなくて――」
「じゃあ、もなかさんたちを解雇するの? ふたりは栄寿さんのために尽くしてきた。栄寿さんのことを本当の家族のように思ってきた。おじさんは、ふたりがセックスの練習台という立場に甘んじようとしない、という理由でふたりをクビにするの?」
おじさんは苛立たしげに頭をかきむしった。
「もし、子供を作りたいなどということを言い続けるなら、それも考えなくてはならん」
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